Atsuo Kuniba
Main publications with capricious comments

おもな論文、執筆記事の紹介。 比較的最近のものには annotation をつけた. サイエンスと関係ない裏話やコメントも含んでいる。 配列としては,上にある●ほど最近扱っているテーマで, 各●内部では下のものほど新しい. ただし多少前後があり,また下のほうの●のテーマは もう考えなくなったというわけでもない. いわば気まぐれな「論文ブログ」である。 あんまり整備してないのは、 歯に衣着せぬ友人の V.V.B.氏(後出)の言 「HP が立派な奴に、ろくな奴はいない」 に幾分感ずるせいもある。 (last update: 16/Mar/2024)

● Symmetric Butterfly Quiverに付随する3次元量子R行列(2023年10月-2024年1月)

前2作ではFock-Goncharov quiverとsquare quiverを扱ったが、symmetric butterfly quiverの場合は未着手だった。これはワイル群の最長元の配線図において、ドメインと交点の双方にY変数(quiverの頂点)を配置するという最も複雑に見えるquiverだ。やってみると、期待通り、付随する量子クラスター代数の3次元量子R行列は、Kapranov-Voevodsky(量子座標環の intertwiner), Bazhanov-Mangazeev-Sergeev (べき根の場合はZamolodchikov-Bazhanov-Baxter), Kuniba-Matsuike-Yoneyama(量子6頂点模型の intertwiner), Inoue-Kuniba-Terashima(Fock-Goncharov quiverのR) 等、既知の多くのR行列を含むことがわかった。 Square quiver の場合までは統一されていないが、それと併せると少なくとも q がgenericな状況では今日までに知られている重要な3次元量子R行列が全てカバーされたことになる。
Sunさんとは1月に駒場で会うことが出来た。 2024年1月17日に脱稿してarXivに投稿したが、ほぼ2ヶ月差し止め(on-hold)にされ、公開されたのは3月15日だった.
  • R. Inoue, A. Kuniba, X. Sun, Y. Terashima, J. Yagi:
    Solutions of tetrahedron equation from quantum cluster algebra associated with symmetric butterfly quiver arXiv:2403.08814
  • ● 量子クラスター代数と四面体方程式,3次元反射方程式 (2023年春ー秋)

    Sun-Yagi(2022)により提唱された量子クラスター代数によるアプローチを進化させ, 具体的に実践する IKT project が始まったのは2023年の早春だった. 3人が対面で一同に介したのは同年9月東北大での数学会の時だけだったが, メールとzoomでなんとか完成まで漕ぎ着けた.第1論文では Fock-Goncharov quiverを,第2論文はsquare quiverを扱っている.
  • R. Inoue, A. Kuniba, Y. Terashima:
    Quantum cluster algebras and 3D integrability: Tetrahedron and 3D reflection equations arXiv:2310.14493
  • Sergeyが1999年に発表した四面体方程式の解はずっと気になっていた.今回ついに量子クラスター代数でその起源を捉えることができて溜飲が下がった思いでいる.
  • R. Inoue, A. Kuniba, Y. Terashima:
    Tetrahedron equation and quantum cluster algebras arXiv:2310.14529
  • 10/26に大阪公立大の数理物理セミナーで話した.尾角氏からmugen のメールリストに 配信された案内には 9/26と書かれていて,駒場で出張手続きしていたら,秘書さんに「タイムマシン利用の出張ですね,かっこいい〜.」といじられた.
    Banff International Research Station (BIRS) workshop, Lagrangian Multiform Theory and Pluri-Lagrangian Systems (Hangzhou, China) で, Fock-Goncharov quiver の場合(arXiv:2310.14493)についてonline講演した(10/24).
    7/31-8/5にBeijing Institute of Mathematical Sciences and Applications (BIMSA)でこけら落としの研究会 Representation Theory, Integrable Systems and Related Topics があり,Square quiverの結果(arXiv:2310.14529)について話した. 初日朝最初の講演で,かのYau氏のopening addressの直後だった.状況上そのまま最前列に留まって聞かれていたのが恐縮だったけれど,隣に座っていたReshetikhin氏がいろいろ質問してくれたのは雰囲気が和む感じで有り難かった.Organizer の Bart Vlaar には特に世話になった.精華大学の八木さんに初めて目にかかり,いろいろ教わって有益だった.休みの日に世界遺産で中国屈指の名園「頤和園」(Summer Palace)を訪れた.入場券を買おうとしてパスポートを出したらなんと「あなたの歳なら無料です」と言われて happy & shocking surprise だった.
    3/21から4/8までANU(オーストラリア国立大)に滞在した. いつものことだが,Murray(Batchelor)が何から何まで良く面倒みてくれた. Sergey(Sergeev),Vladimir(Mangazeev),Vladimir(Bazhanov)とも議論できて有益だった.球面三角の余弦定理等を勉強して,Fermat curve 上の点のparameterization をK-Matsuike-Yoneyamaに即して整理した.3月30日にMathematical Science Institute Seminar で 量子化された6頂点模型と四面体方程式[KMY23]の話をした. 真ん中最前列のテーブル席にRodney(Baxter)とVladimir(Bazhanov)が並んで座り, 右端にMangazeevとSergey,後ろには Murray という具合で,同窓会(?)的な和やかな雰囲気のなか,楽しく話をさせてもらった.最後には記念にグループフォトも撮った. 駒場の居室に貼ってある30年くらい前の写真と比べると, みんな年とったけれど笑顔で収まっている. Rodneyさんは83歳.声が細くなり,歩くのもゆっくりになったが,お元気で, 週末にはElizabethさんと一緒に車でCanberra郊外のBangendoreに昼食ピクニックに連れて行ってくれた.帰国前にもMurrayとRodneyさんと3人で昼食したが,別れ際に握手を求めて来られて,とてもemotionalなgood-bye だった.VladimirとLyudmilaからは綺麗な壁飾りのお土産をもらった.

    ● 四面体方程式 RLLL=LLLR (2022年夏)

    3次元L演算子は,自由フェルミオン型6頂点模型の ボルツマン重率にq-ワイル代数の非可換性を導入した量子化である. q-ワイル代数がq-振動子に退化する表現では RLLL=LLLRはsl3の量子座標環の ソイベルマン表現の同型関係と一致する. これが「座標表示」の状況とするなら,「運動量表示」では何が起こるのか. Rを求めてみると,行列要素は完全に因子化した. ソイベルマン表現の同型には見られない性質だ. 一般化カイラルポッツ模型のボルツマン重率が因子化する理由は 30年来のミステリーだが,今回の因子化はそのメカニズム解明への一歩になるだろうか.一般に,運動量表示のLと座標表示のLを混合させたRLLL=LLLRを調べてみると, Rは因子化するか,q-超幾何的な明示式を持つことがわかる. カプラノフとボエボドスキィによる四面体方程式の有名な解は 超幾何の方だった.
  • A. Kuniba, S. Matsuike, A. Yoneyama:
    New solutions to the tetrahedron equation associated with quantized six-vertex models arXiv:2208.10258
  • 数年ぶりに訪れた京都で,数理研とCreswick(Australia)を中継で結んだ合同研究会 MATRIX/RIMS tandem workshop の最終日の最後コマに話すことになっていた.教室にキリロフさんが頻りと出入りしていた. 最終日になって彼が一つ前のコマで話すことになり,開始が遅れるのを覚悟した. 案の定そうなったが,講演直前にMATRIX (Creswick)の参加者は金曜夕方のMelbourne行バスの時間が迫っていて後ろに延長もできないことがわかった.それで急遽大幅カットし,30分程で切り上げた.帰りに今出川通り沿いのバス停で名古屋大の岡田さんと会ったら 「思いっきり早口でしたね」とニンマリされた.殆んど聞き取れなかったかも知れない.典型的な失敗講演だった.Workshopの前半は野海さんも参加していた.予想している四面体方程式は,伊藤さんとやっているq-超幾何の多重和拡張の双対性にきっと関係するだろうとのことだった.あのRamanujan和の世界にそのような縁で関わっていけるのか楽しみだ.
    Montreal大学CRMのワークショップ(2022.Sep.19-23) Integrable systems, exactly solvable models and algebras で オンライン講演した.

    ● Project X (2020年12月--2022年1月)

    X=本の執筆だった.誰の格言だったか 「若いなら証明に挑め、年とったら本を書け」に従ったわけでもないけれど.
    Springerさんとは,10年近く SpringerBriefs in Mathematical Physics の Series Editor をしている縁もあり,Theoretical Mathematical Physics という Seriesの単行本を執筆することになった. 執筆を始めたのは2020年12月.第一稿は 2021年10月初旬に出来上がった. その後,Chapter 9の追加と査読報告に沿ったマイナー改訂をして脱稿したのが 2022年2月.それから校正を経て出版されるまで8ヶ月かかった.出版社の担当者の方にはとてもお世話になった.3次元との関わりは2011年11月18日に Sergey Sergeev が駒場にやって来た時に遡る.それ以来およそ10年の研究記録をコロナによる巣ごもり内職でまとめる形になった.10〜11ヶ月くらいひたすら書き続けるのは T-systemとY-systemのreview論文日本語の「ベーテ仮説と組合せ論」 以来だった.

    ● 箱玉系のカレントゆらぎ,Drude重率,大偏差関数(2021年晩秋--2022年1月)

    リーマン問題が一段落した後,カレントの動的相関にTBAを拡張適用してみると 何故か数値計算とピタリと符合していた.なぜ動的問題にTBAの定常的Y関数のゆらぎ(自由エネルギーのHessianの逆から求まる)を持ちこんでうまくいくのか謎だった.そうこうするうちにDrude重率を四足に拡張してみると完全対称テンソルになって,これは何なんだということになった.思い出してみると箱玉系の可換な時間発展のインデックスと保存エネルギーのインデックスは独立にとってもよくて,その自由度に相当する一般化カレントであると判明した.TBAはこれの動的相関も上手く捉えるようだ.それで,ますます謎になり,Zoomで話す.向こう(Paris)は昼間だけどこっちは日付が変わる時間帯,..意識朦朧となって寝る.そんな繰り返しだったが,最後には,流体力学的射影というGHD的な考え方でなんとか折り合いをつけられた.サクレーのスーパーコンピューターを使わせてくれて有難うという謝辞が入っていて,この年になって初めてスパコンが自分の論文に使われたのは嬉しかった.原稿で,plateau の複数形が plateausかpleteauxで,フランス人同志で意見が必ずしも一致していないみたいだった.(笑)
  • A. Kuniba, G. Misguich and V. Pasquier:
    Current fluctuations, Drude weights and large deviations in a box-ball system arXiv:2201.13126
  • 2022年年明けの RIKKYO MathPhys 2022 で、結果を一部公開した.
    Montreal大学CRMのワークショップ(2022.Sep.19-23) Workshop on box-ball systems from integrable systems and probabilistic perspectives での2回目の講演で話した.当初は現地に行くつもりでいたが,やはり諸事情が厳しくてonline talk になってしまった.

    ● F4の話(2021年4月-5月)

    四面体方程式のF4類似は2012年の論文に書き下してあった.Buildingsの理論(奇異な名称だが,かのTitsに由来し,ブルバキも採用?Mark Ronanによる教科書もある )によればランク3のparabolic subgroup B3, C3 に帰着するはず. 式でいうと50個のオペレーターの積があって,自明に可換なものは上手く入れ替え, 3次元反射方程式(B型とC型の二通りある)が適用できる形に持っていき, 局所的に7個を逆順にする.そういう操作だけの繰り返しにより50個を完全に逆順に 持っていけるか,という問だった.3本ないし4本の足を持つ駒が50個ある詰将棋という感じ.ただし指し手はunique ではない.初手から数手進むのに2日ほど.その後次の一手が見つからずに3日ほど長考.仕方なく,いろいろな探索をする補助プログラムを作ってデバックするのに数日.そのかいあって次の1手が発見される.その後徐々にコツを掴み, MathematicaとのIOがうまくいき始める.最後は光速の寄せ(谷川浩司さんと同じ歳なのでそう呼ばせていただく)で詰めきった. こんなマニアックな話は何処にも出せないと思っていたけど,茂木康平さんが世話人されている数研講究録に書いてしまった.
  • A. Kuniba:
    On tetrahedron type equations associated with B3,C3,F4 and H3 arXiv:2202.12061
  • ● 完全箱玉系(complete box-ball system)の一般流体力学(2020年卯月--霜月)

    A型sl_n 箱玉系は(n-1)色の玉を用いて記述される。n>2の場合はmulticolorとなり,当初ソリトンの散乱規則が非自明なのが興味をひいた。ハドロン散乱におけるquarkのように内部自由度の交換が起こる。このような散乱を非対角と呼び,それに対して位相(漸近軌道)のずれだけが起こる場合を対角と呼ぶ。 非対角散乱を起こす可積分系で一般流体力学(GHD)をどう定式化するかは以前から課題だった。CanberraやSaclayでBenjamin, Vincent, Gregoireらと議論したが,決定打はない。multicolor箱玉系でソリトンの有効速度方程式に散乱の非対角効果を取り入れる拡張は幾つか思いつくけれど,どれを試しても実験と合わない。そもそも散乱ごとに移り変わる内部自由度は保存量でなく,それでソリトンをラベルすること自体NG感が強かった。生物個体は遺伝子にとっては乗り物に過ぎないように,ソリトンは玉(Young tableau letters)にとってはひとときの乗り物でしかない。それが利己的かはさておき,個体=ソリトン,遺伝子=Rigged configuration(作用・各変数),ACGT=ベーテ根,遺伝子発現機構=Kirillov-Schilling-Shimozono全単射と対応する。 4月に単色箱玉系のGHD論文(二つ下の●参照)は出来上がったが,単色の場合は対角散乱しかないので,上記の非対角問題を解決したわけではなかった。突破口が見つからないままテレワークの日々が過ぎていったが,緊急事態宣言が出た頃,(n-1)color箱玉系の局所状態としてsl_nの基本表現の結晶基底を全てテンソルしたものをとると,散乱は完全に対角になること(!)が判明した(n>2)。顕著な性質はそれだけに留まらない。位相のズレは熱的ベーテ方程式の積分核の特殊値と一致し,カルタン行列による簡潔な明示式を持つ。ソリトンはKirillov-Reshetikhin 加群と同じくカラーと振幅だけでラベルされ,Rigged configurationの全てのヤング図が直接ソリトン数と結びつき,(n-1)系列の可換な時間発展が(玉の持ち去りを防ぐための人工的な境界条件を課さずに)自然に定義できる。これらは元祖単色箱玉系(n=2)の性質を最も麗しくmulticolorに拡張するもので,「完全箱玉系」と呼ぶにふさわしい.基本表現の完全なリスト・自由度が局所状態に組み込まれているからだ。従来研究されてきたmulticolor箱玉系は,初等的に定義できる反面,上記のどの性質も満たしておらず,どこか中途半端でカラー間の非対称性感があった。今から思えばそれは基本表現のうち,ベクトル表現だけしか取り入れない「不完全箱玉系」だったからだ。完全箱玉系ではRigged configurationの全てのヤング図がデモクラシーを謳歌し,遺伝子=個体という社会が実現している。箱玉系が誕生してちょうど30年目の今年,GHDに導かれて漸く最も「由緒正しい」multicolor版が捉えられたと言えるだろう。一般には基本表現のどの一部を取り入れるかによって,2の(n-1)乗個の不完全箱玉系が生じる。今回の完全箱玉系と従来のものはその両極に位置する。不完全箱玉系のGHDをどうにか手なずけられるものなのかは未解決問題として残る。9月に APIOS seminar で話した時は,multicolor の場合スライドは用意していなかったので予告だけに終わった.着想から論文完成まで半年以上かかったけれど,実働していたのはせいぜいその半分程か。パリも駒場もコロナで大変だったし,それは今も続いている。
  • A. Kuniba, G. Misguich and V. Pasquier:
    Generalized hydrodynamics in complete box-ball system for U_q(\widehat{sl}_n) arXiv:2011.08052
  • SciPostに初めて投稿してみた.査読者の推薦や一般読者の意見講評が公開のプラットホームで行われるのには驚いた.雑誌自体の完全オープンアクセス化は勿論だが,もっと踏み込んだ新時代の学術誌の形態について考えさせられた. 査読には時間がかかったが,水準はまずます満足できるものだった. SciPost Selections に選ばれた.Gregoireによると始まったばかりの企画でほぼ最初の Selectionらしい.

    ● 繰り込み群的特異摂動(2020年長月)

    大学院で冬学期担当の繰り込みの昔のノート見ていたら、イリノイグループのやり方で 特異摂動の永年項がオールオーダーで封じ込められることの一般的証明が無かった事を 思い出した。昔、多分2007年頃、大野(Oono)さんに聞いたけれど、 既にその話からは遠ざかっているとのことで、確答を得なかった。 QEDだったら Dyson が「示した」ことになっている命題だ。 今更感もあったけれど夜のジョギング以外は家に籠っているので、徒然なるまま 考え始めた。繰り込まれた振幅を計算機で生成して眺めていたら 共鳴永年項で時間tを-tに変えたものに epsilon の2乗まで一致していた。 早速もう少しオーダー上げて、 Van der Pol, Mathieu, Duffing といろいろ試してみると、 みんな成り立っていた。これが本当なら、 無限個の高調波 exp((integer)it)の永年係数が 一斉に麗しい関数方程式を満たすことを意味し、 そのことからオールオーダーの繰り込みが直ちに従う。 そう認識した頃には結構はまっていた。 でも方程式のポテンシャル部分にharmonics以外の t が non-autonomous にいるとダメだった。 どうして良いポテンシャルとそうでないポテンシャルがいるのか、 木星、土星、火星と月を見上げながら夜道を走る日がしばし続いた。 その後結局解ってみると理由ははっきり納得できて証明も初等的だった。 これまで繰り込み定数を用いて、裸の振幅と繰り込まれた振幅を行き来するのに 摂動の各次数で逐次逆解きしていく必要があったけれど、それが全部解消してしまう。 こんな単純化があったなんて誰か指摘しているはずだと思ったけれど 文献見つけられなかった。 それで短く纏めたけれど未だ疑心暗鬼でいる。 一か月程楽しめたのは、世の中から切り離された 隠遁生活のおかげだけれど、もしかしたら 今年冥府に去った Dyson が天上の星々の間からかすかに微笑んでくれたのかもしれなかった。(Dysonは駒場に縁のある人だった。その話はまたいずれ。)
  • A. Kuniba:
    A remark on renormalization group theoretical perturbation in a class of ordinary differential equations arXiv:2009.12996
  • 由緒あるProgress of Theoretical and Experiments Physics に初めて投稿してみた. Editor's Choice になり,JPS Hot Topics (というプラットホーム)に A New Approach to Solving Periodic Differential Systems という紹介記事(業者作成)が出た.かつて京大基研にいらした国広悌二さんからメール頂いた.関連記事を学会誌に書かれていたこともあり,くりこみ群方程式は初期値をパラメータとする曲線群の包絡線方程式であるとの指摘(これもたしかProgress に掲載)は参考にした論文だった.包絡線について確か高木貞治の解析概論が引用されていたのが印象に残っている.上記の関数方程式はこれに相当する包絡条件をexactに実現している.

    ● 箱玉系の Generalized Gibbs ensemble (GGE) と generalized hydrodynamics (GHD) (2019年晩秋--2020年弥生)

    以前「ランダム箱玉系の極限形状...」(下の記事参照)で扱ったのは概ね玉の総数をエネルギーとする Gibbs 分布に該当するが、もちろん箱玉系には保存量の完全系が知られており、それらのdemocracyを尊重するなら自然にGGEになる。GGEに一般化Q-systemの理論を用いればソリトンの密度やカレントがfugacityの冪級数として系統的に得られる。GHDはソリトンの有効速度に対するspeed方程式を与える。ちょうどその解が見つかった2019年11月下旬、SaclayにVincent Pasquier(後出参照)を訪れた。いろんな人に出会い、再会した。Ivan Kostov,「ルーマニアの天才少女」Didina Serbanとは9月の大阪以来だった。本郷の松尾泰さんが当地に滞在中で、一緒にパリでサーカス見物(!)した。Hubert Saleurとは時折メールで交信していたが、直接会うのは1989年の京都以来丁度30年ぶりで、今出川通りのゲームセンターで一緒にレーシングゲームをやったりしたのを彼も覚えていた。2019年6月に京大数理研にも来ていたRinat Kedem, Phillipe Di Francescoコンビもいて、毎日Vincentと四人で昼食をとった。今回もQ-system/Macdonald理論の成果を2対1でみっちり諭された。故Claude Itzykson(下に回顧談)の名を冠したホールでRigged Configurationの極限形状のセミナーをさせてもらったが、直前に館内放送でVincentからのアナウンスが流れたのにはびっくりした。研究所の習慣らしい。Dmytro Volinとは初めて会ったが、沢山質問してくれて面白い。3月には彼をNorditaに訪ねる予定でいる。VincentのオフィスはMichel Gaudinと相部屋だった。Gaudinは殆ど研究所には来ないとのことで、その机を使わせてもらった。部屋のホワイトボードで一緒に計算するも夕方6時頃(日本の午前2時頃)になると時差で朦朧としてくる。すると突然Vincentが何か見つけてハッと眠気から覚めたりという日々だった。ホワイトボードマーカーはStaedtlerのものだったが、いくら使っても薄くならず、感心する一方で、まだ計算のリキが足りないせいかも、と言ったら Philippe にうけた。途中からGregoire Misguichも加わった。1を聞いて10を知るタイプ。流石にSaclayだけあって群季ノ俊秀ハ皆恵連為リだ。年越しの頃、GHDによるカレントとポアンカレ周期にわたる時間平均を比較していたら、speed方程式とトロピカルリーマンテータ関数の周期行列との一般的関係が判明した。更にドメイン壁の初期条件から時間発展させると密度分布にプラトーが生じることが見つかった。解の区分線形性から自然な事とも言えるが、ソリトン気体の創発する現象として鮮明で、GHDが威力を発揮する対象だった。まもなくプラトーの位置や高さのexact formulaが導出できた。Gregoireのシミュレーションと突き合わせるとぴったりで、まさに「いいね!」だった。プラトーエッジの広がりについても詳しい定量的記述が可能だ(2020年如月中旬:下の後編に続く)。
    大阪市大ワークショップ:前回の更新以降最大の行事はWorkshop New Trends in Integrable Systems で、準備に2年も費やした一大イベントだった。それが佳境に入る8月中旬、想定外のことがあって事務処理能力の限界を超えてしまった。呆然となっていたところを、駒場素粒子グループ・池上研究室秘書の佐々木桐子さん、庶務の前田泉さんをはじめ大勢の方に助けていただいた。特に佐々木さんは台風の迫る中、大阪まで出張して現地での参加登録等に多大な尽力をしてくださった。
    Claude Itzyksonの思い出:いわずと知れたフランス理論物理の往年の重鎮。教科書でお世話になってない人はいないだろう。1988年秋、京大数理研で開催された谷口シンポジウムに、Baxter, Belavin, Cardy, (Igor)Frenkel, McCoy, Takhatajan, (Sasha)Zamolodchikovらと共に来日し、初めてお目にかかった。長身、ロマンスグレーのにこやかな紳士で、こちらまだ学生だったが親切に話をしてくれた。ちょうどその頃SU(2)の離散部分群に関するマッカイ対応と可解格子模型の関係のハイヤーランク版に興味があって、Itzyksonも関心を持っていた。会期中、谷口財団のミスター谷口(谷口豊三郎氏!)主催の晩餐会があった。昼間ラフな格好で京都見物していた招待メンバーも少し緊張して会場のホテル入りし、狭い控室で一斉に正装に着替えるのにてんやわんやしていると、Itzyksonが「Foot Ball Team!」と叫んだので、一同大笑いとなった。着替え終わってみるとモーニング姿が一番きまっているのはやっぱり彼で、さすが花の都のムッシューだった。このシンポジウムは、Zamolodchikovが臨界温度magnetic Isingの有効場理論がE8因子化散乱だという話を初めて語った衝撃で伝説になっている。実際Sashaが前の晩に計算したという保存量の次数を列挙し、「Look!...」と言ってE8の指数との一致を指摘する歴史的現場に居合わせた。個人的にも、かのRodney Baxter氏と初めて会い、その縁で後にQueen Elizabeth II Fellowに採択されてオーストラリアに渡るという大きな転機になった。最も思い出深い。
    余談:年末年始、日課の夕方のジョギング時、ずっと金星が綺麗に見えていた。 ローマ神話の「ビーナス」、ギリシャ神話の「アフロディーテ」も優美だけれど、日本の「宵の明星」、「明けの明星」も情緒ある呼び名だ。輝く金星を見ていると、あのウルトラセブンの最終回を思い出してしまうのは自分だけだろうか。ウルトラ警備隊を離脱したダンのもとにアンヌがやってくる。「何故逃げたりなんかしたの?ね、答えて、ダン」、「アンヌ、僕は、僕はね、人間じゃないんだよ、M78星雲から来たウルトラセブンなんだ!!」衝撃の音楽(シューマン ピアノ協奏曲 イ短調 Op.54)と共にシルエットに変わる二人。画面変わってウルトラ警備隊本部。キリヤマ隊長の号令「マグマライザー発進!」がいよいよクライマックスへの号砲のように響く。そして再び画面はダンとアンヌに。アンヌの目に涙。そこで放たれるダンの究極のセリフ「西の空に明けの明星が輝く頃、一つの光が宇宙ヘ飛んでいく。それが僕なんだよ。..... さようならアンヌ!」 引き止めるアンヌを振り払い、死を賭して最後の戦いへとセブンに変身するダン。美しいBGMと、このあまりに切なく悲壮でヒロイックな美学に、当時の小学生の男子はどうして自分もM78星雲に生まれなかったのかと口惜しがり、一斉にアンヌ隊員(ひし美ゆり子さん)に初恋に落ちたと言われている。全ウルトラシリーズ中でも最高のシーンかもしれない。ところで、金星はもちろん太陽に近く寄り添っているので、それが良く見えるのは太陽が隠れる宵の口か明け方で、前者は西に、後者は東の空に輝く。諸星ダンの「西の空に明けの明星が輝く頃」は今でもYouTubeで確認できるが、それを超越している。これが「ヒガシの空に明けの明星が...」では確かに間延びして、セリフがしまらないのだ。もはや秋山真之の世紀の名文「本日天気晴朗ナレドモ波高シ」と同レベルの存在と言えるだろう。そんなことを思いながらジョギングから戻ると、類いまれな恵みの名の持主からメールが届いていて、年の瀬の記念日を祝ってくれた。アフロディーテからの祝福だった(照)。
    Baxter2020:2020年2月、Rodney Baxter氏の80歳記念研究集会 Baxter2020: Frontiers of Integrability があった。Rodneyさんがhappy surpriseで空港まで迎えにきてくれたのに、飛行機が遅れたせいで待ちぼうけさせてしまい、痛く恐縮した。キャンベラは、直前まで森林火災やhail stromの被害で大変だったのが嘘のように爽やかだった。アラサーの頃2年過ごしたオーストラリア国立大学。あちこちからユーカリの香りがして懐かしかった。またしても沢山の人と再会したが、中でもBenjamin Doyonからプラトーエッジの拡散的広がりなどいろいろ教わることが出来てとても有益だった。After hourも、Rodneyさん、Elizabethさん夫妻と夕食に行ったり、Vladimir Mangazeev(後出参照)宅でのロシアンBBQパーティーなど、盛り沢山だった。Happy surprise は帰国後にも。なんとアフロディーテからDBのホイポイカプセルが!! 旅の疲れが吹きとんだ。
    後編(2020年2月後半--4月初旬):ソリトンの伝搬が弾道的ならプラトーは完全に90度の折れ線になるが、この描像は第0近似に過ぎず、実際にはプラトーは境界で有限温度フェルミ面のように鈍り、広がりを持つ。これは他のソリトンの影響によるもので、最低次の補正はランダムな擾乱による拡散的効果として扱って良い。その拡散係数を組み入れた誤差関数 erfc が滑らかなプラトー境界の形状を与えるはずだった。そこで問題となるのは拡散係数の計算で、Canberra で Benjaminにしつこく尋ねたのはそのことだった。彼や Bernard らは久保理論から出発して系統的な理論を展開していたが、こちらは素人なので、より直接的・直観的方法でやりたかった。そこで Gopalakrishnan や Huse 達の論文が参考になった。要となるのは自由エネルギーのHessianをTBA方程式の解において評価することで、その源流は Yang-Yang (1969年の元祖TBA論文) にまで遡る。今更ながらに流石だ。そうしてi.i.d. ランダムネスの場合には拡散係数の解析的表式の予想を得ることができた。証明は手間暇の問題だが、やらなかったのはサボりだと言われれば、否定できない。ともあれ、Gregoire のシミュレーション結果との一致は極めて良く、ズレは肉眼ではほとんど認識できない。拡散係数にして1パーセント以内だった。ここまで理論と(数値)実験が一致するのは気持ちいい。2月後半にVincentに駒場に来てもらったり、3月にパンデミックに入った欧州にこっちが出向いたりして(下の記事「ノルディタ滞在、フランス脱出」参照)、論文完成までに何かと時間がかかった。執筆の終盤、New York(!) の佐々田槙子さんからプレプリント情報をいただいたりしたのでサクレーの二人に伝えたら、それが功を奏し、ラストスパートのエンジンがかかったようで、ようやく脱稿した。
  • A. Kuniba, G. Misguich and V. Pasquier:
    Generalized hydrodynamics in box-ball system arXiv:2004.01569
  • ノルディタ滞在: 2020年3月8日Stockholm 着。その頃はまだ感染者数は日本よりずっと少なかったと思う。Nordita北欧理論物理学研究所は、分野ごとに小ぢんまりとした可愛い建物に分かれ、整然と立ち並んでいる。Dmytro Volin を訪ねて1週間過ごした。 あの Ivan Kostov をして、「自分の歴代の学生の中で最高」と言わしめた人物。確かに話をしてると「キレキレ」で快感だ。RSK対応のQ-symbol は row insertion と column insertion で異なるものが出来上がるが、その由緒正しさに優劣はなく、実際 Schutzenberger involution で結びついている。それは Jeu-de taquin で実現され、rigging と co-rigging の入れ替えになっている。そんな話から始めてKKR全単射を詳しくを説明したら、喜んでスポンジのように吸収していった。去年彼がサクレーで聞かせてくれた研究と結びつければ、KKRアルゴリズムを天下りではなく「導出」できてしまいそうだった。その着想にあるBethe 根の振る舞いを動画にして見せてくれた。「まるで膨張宇宙の銀河団みたいだね」と言ったら、その例えを気に入ったらしく、直ぐにダークマターやハッブル定数のKKR理論での対応物をホワイトボードに列挙してくれた。遠からず Dijon (ブルゴーニュ大学)の Sebastian との論文ができあがるだろう。Bethe ansatz の組合せ論に新風を吹き込んでくれそうで楽しみだ。Dijonにも行く予定だったが、滞在中にフランスの状況が悪化して断念せざるを得ず、結局Sebastianには会えずじまいだった。Baxter2020 でも一緒だった Konstantin Zarembo は Norditaの Deputy Director で忙しいはずの人だったが、セミナーでも色々質問してくれたり、とても親切にしてくれた。
    フランス脱出:3月15日にStockholmからParisへ移動。春爛漫の日曜日だった。翌月曜、日中ヴァンサン(Vincent Pasquier)とグレゴアール(Gregoire Misguich)とサクレー研究所で論文について打ち合わせできてよかった。既に多くの人がテレワークのようで、殆ど人気がなかった。申し訳なさそうな秘書さんに Thank you for hospitality といったら苦笑していた。失言だったかもしれない。夜、ヴァンサンの家に晩餐に呼ばれた。それがデザートにさしかかった頃合いの夜8時、マカロン大統領のTV演説。ヴァンサン一家と一緒に見た。前日の日曜に、春の陽気に誘われて多くの市民が屋外で感染を気にも留めずに羽を伸ばしていた事に怒り心頭の様子で、翌17日午後から外出禁止令が下った。羽目を外して担任の先生から大目玉をくらった○年○組みたいだった。その夜ホテルに戻ると、フロントで呼び止められた。「君を探していた、みんな退去した。今夜泊まるのは君だけだ、ホテルを閉める。申し訳ないが明日以降の予約はキャンセルにしてほしい。」 実際翌朝は9時頃に水道の水が止まった。まさに蛇口が絞られるように、社会のインフラがじわじわと止まってゆく。脱出せねば、そう思いつつも、その日の午前中はまたサクレーまで行ってヴァンサンと議論継続。昼頃、彼の車で研究所を脱出。運転しながら彼曰く、Now it starts to be illegal! 最寄りの Le Guichet の駅に着くと、ちょうど空港行きの列車がホームに滑り込んでくるではないか! これを逃すわけにはいかない! 車から飛び降りたヴァンサンが列車へ猛ダッシュ!、ドアが閉まらないように体を張ってブロック! こっちはスーツケースを大車輪で転がし、そのドアめがけて渾身のトライ!、間一髪セーフ!! 自分史上、最もあっぱれな駆け込み乗車だった。ようやく閉まったドア越しに手を振って、完璧なアシストとゴールを決めた互いの健闘を讃えあった。 しかしこれはまだ序曲に過ぎない。戒厳令のパリからフランスを脱出するミッションは続いていた。すっかり007になりきってシャルルドゴール空港駅に着き、急遽手配した近くのホテルに向かう。しかし、その名は 「ゴールデンチューリップ」、シャトルバスの名は「ピンクライン」で、シンデレラの馬車に乗った James Bond みたいだった。
    自宅待機 (2020/3/20-2020/4/2): 外出は夕方のジョギングだけで、静かな日々だったけれど、感染症のことでメールの受信トレイがオーバーシュートしていた。思えば2011年3月に東日本大震災があり、4月から物理の主任だった。今年2020年2,3月には新型コロナの感染爆発があり、4月から再び物理の主任。今度また○○主任とか○○長がまわってきたら、東海地震や富士山噴火が心配だ。それでなくても昨今の地球では、災いは忘れた頃にはやって来ない、次から次へとやって来る。

    ● 反射方程式の集合論的解 (2019年五月-文月)

    最近ここの記事は,ゆかりの人々のcapriciousな列伝になっている風なので, 今更ではあるけれど今回は尾角正人さんのこと. 最初に会ったのは未だ10代,おそらく1981年4月頃,駒場の自然科学研究会(通称自然研)というサークルの部室で,当時,駒場寮北棟のたしか2階にあった. 顧問をしてくださっていたのは小出昭一郎先生で, 何人かで居室にお邪魔する機会があった. 壁一面の書架に PRBが並んでいて,ご自分の論文が載っている volume の 背表紙にはマジックで印がついていた. それが途切れている辺りを指し示してか「その後遊んでしまいました」 というようなことを言われた. 教養学部長等をされていた事の最も印象的な表現だった. 「ロバート・フック,ニュートンに消された男」の著者の中島秀人さんあたりが サークル創設メンバーの一人ではなかったかと思う. 主な活動は,ランダウやブルバキ,情報科学,生命科学,科学史の古典などの輪読で, 「ランダウ場古典パート」というように「パート」と呼ばれる数名のグループ をユニットとしていた. 香取眞理さん(中央大),花村昌樹さん(東北大),山西健司さん(東大), 小西哲郎さん(中部大)等と一緒だった.先輩には近藤慶一さん(千葉大)もいて, チューターになってもらったこともあった. 小出先生は2008年に他界され,自然研も,駒場寮ももはや存在しない. 尾角くんとは結局一緒のパートにならなかったけれど,たしか高木貞治の「整数論講義パート」の主催者になっていて,夏合宿でそれについてレポートするのを聞いて,明快だったというような,今となってはうっすらとした記憶がある. 次に思い出すのは尾角くんが大学院で京都に移動する少し前の 1985年頃,やはり自然研のセミナーで KdV の話をした時のこと. 会場は本郷の浅野地区の建物だった. 広田双線形形式に書き換える計算を黒板でやりきり, 最後に佐藤グラスマンを出していた.セミナーの後,何年かぶりに話をして 村瀬元彦さん手書きのノートのコピーを送ってもらったことがあった. その頃はソリトンにご執心だったようだけれど, 数理研に進学して三輪さんの処に行くと 「ソリトンはもう終わったよ」と言われたそうな. その後 Yang-Baxterの世界に進んでから研究交流するようになり,今に至る. ざっと数えてみたら今回の論文は, [Date-Jimbo-K-Miwa-Okado NPB (1987)]以来共著としては第48作になるようだ.
    1+1次元時空で4つの粒子が仮想的な境界について鏡映対称な初期条件で接近し, 散乱するイベントを考える.A型Kirillov-Reshetikhin クリスタルの設定とし,粒子はヤング準標準盤で表わす.鏡映は粒子の世界線を折り返すだけでなく,反粒子(双対クリスタル)に映す,つまり双対準標準盤に変換するものとする.このような4体散乱の Yang-Baxterダイアグラムは全体が鏡映対称になると期待される.これを示すには 初期条件の鏡映対称性が伝搬することの証明が必要で,多少非自明だが, ともかく,OK=Theoremだ.そんな鏡映対称4体散乱ダイアグラムの「こちら側」だけを見るなら反射方程式にほかならない.鏡での反射規則(Kと書かれる)は準標準盤とその 双対準標準盤と組合せRとなり,有名な Shimozono アルゴリズムの特殊ケースとして記述されることになる.反射方程式の集合論的解の研究はポツポツとあるが,量子群起源の組合せ論的なものとしてはほぼ決定版ではないかと思う.昔やってた反射箱玉のときに見つけていたものも(実は全部ではないが)これに含まれる.幾何クリスタルでも同様だ.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Set-theoretical solutions to the reflection equation associated to the quantum affine algebra of type A^{(1)}_{n-1} arXiv:1907.10234
  • プレプリントが arXivにのると,Leeds のVincent Caudrelierさんからvector 非線形シュレディンガー方程式のソリトンに関連して類似の構成があることをコメントしてもらった.
    余談:Robert Hooke の肖像画が存在していないのは,その死後に 彼との論争に辟易していたNewtonが王立協会を牛耳り,ほとんど始末してしまったからだ,というのはよく囁かれる都市伝説で,Murray Batchelor からも聞かされた.実際,中島秀人さんの本によると,ある時Newtonが鶴の一声で王立協会の引越しを決めたといういきさつもある.ところが最近,某教授会で偶然隣に座った科学史の橋本毅彦先生とHooke の話をしていたら,ご持参のパソコンの画面上にHooke の肖像画を出して見せてくださった. 初めて見る巨人の肖像画に感慨一入,「開運なんでも鑑定団」の中島誠之助さんだったら「よくぞ伝わった!」とのたまわれただろう.

    ● Onsager 代数と量子スピン鎖 (2019年卯月-文月)

    Onsager代数は量子アフィンリー環への標準的な埋め込みがある. 埋め込んだ後,A^{(1)}_{n-1}型では基本表現,B^{(1)}_n,D^{(1)}_n, D^{(2)}_{n+1}型ではスピン表現をとる. この合成をやってみると,Onsager代数の生成元は,長さ n の XXZ型 spin1/2鎖の 局所ハミルトニアンに見立てられることがわかる. 単純ルートに対応するシュバレー生成元は XX型交換相互作用項に, カルタン部分は対角項Z部分と定数項を与え, これらの和をとった XXZ型の寄与が現れる. 一般には磁場項とジャロシンスキー・守谷型相互作用も入る. 定数項はハミルトニアンとしてはどうでもいいけれど, ピッタリOnsager交換関係を満たすよう,選ばれし特別な値が出てくる. A型以外では,Dynkin図を反映した境界項も付随する. XXZハミルトニアン には実はこのような出自もあったという事は,ちょっとした コロンブスの卵といえる.ポイントは spin1/2表現のテンソル積を考えるのではなく,システムサイズ n をランクとする代数のたった一つの表現を考えること. このような見方は 多状態TASEP, TAZRP でも有効だった(下の2015-2016頃の記事参照). Chiral Potts 以外で free-fermion を超えるOnsager代数の実現は Uglov-Ivanov が1996年の論文の締めくくりに切望していた夢で,それを叶える系統的な例が見つかったことになる.この事が拓く応用は今後の課題だ. この論文では反射方程式の行列積解(K-Pasquier:下の「量子反射方程式 」の項目参照)がハミルトニアンと可換な対称性となる事を示し, Onsager 代数の古典部分についてのスペクトル分解を扱った.有名な量子R行列のスペクトル分解の境界版といえる結果で,例によって固有値は麗しい. A型ではこれまたよく知られた Temperly-Lieb代数と古典 Onsager 代数に 単純な関係があることを指摘した(論文Remark 3.1).これも結構コロンブス.
  • Atsuo Kuniba and Vincent Pasquier:
    Quantum spin chains from Onsager algebras and reflection K-matrices arXiv:1907.07881
  • プレプリントが arXivにのると,案の定 Pascal Baseilhac 氏からメールをいただいた.Onsager代数に関して最も多くの論文を書いている人かもしれない. Uglov-Ivanov の構成法は少なくとも q変形しない Onsager代数については RTT=TTR formalism を使って一般化できていることを教えてもらった. 今度の 9月に大阪市大である Workshop New Trends in Integrable Systems で今回の Vincent との論文に関係した話をしてくれるそうで,楽しみだ.
    余談:論文書き始めの頃,京大数理研でクラスター代数の大きな国際会議があった.Sergey Fominさん,David Hernandezさん等,何年かぶりの再会だった.会期中,Rinat Kedem とPhilippe DiFrancesco のコンビに捕まって,C型差分L-operatorに関する昔の論文[K-Okado-Suzuki-Yamada (2002)]のことを根掘り葉掘り聞かれた.どうやらクラスター・マクドナルド理論絡みで関連した拡張をやってるらしい.6月5日,吉田キャンパスの時計台近くのカフェで晩餐会があり,その後,この時期なら蛍が見れるかも! との期待を抱いて柏原さん,尾角くん,中島くんと哲学の道近くまで散策.ちょうど三輪さんのご自宅の近くだったので柏原さんが電話されたが,あいにくお留守だった.その後自転車で通りかかった Bernard Leclerc も一緒になって疎水に目を凝らしたところ,確かに明滅する(おそらく源氏)蛍を何匹も見ることができた.学生時代以来のことだった.数は昔ほど多くはなかったけれど,あの頃は疎水も豊かでその水面の反射によるdoubling 効果もあったように思う.Bernardから「蛍」のフランス語を教わったが忘れてしまった.その後,晩餐会では飲みたりなかったのか,先斗町へくりだして,第2ラウンドとなった.お開き後は,烏丸御池の宿近くまで柏原さんと同道した.今は本当にお元気ながら,流石に数理研の所長時代はスーツネクタイ姿に変身する機会も多く,大変だった話などを伺った.柏原さんのスーツネクタイのモーニング姿といえば,去年11月の京都賞受賞講演で,scientific な話はもちろん,フランス語を如何にマスターされたかというエピソードも印象的だった.その後駒場に戻り,昨年度教務事務でとってもお世話になった立木千津子さんに,京都で撮った蛍のスマホ動画(実はほんの2,3匹しか写ってない)を見せて得意になっていたら,その後彼女はなんと16号館の近くでアオダイショウの撮影に成功したという,..負けた. 後日見せてもらった. アオダイショウはまさに「地を這うもの」(創世記の文言?)の威厳を感じさせる大物だった.それに加え,赤ちゃん蛇が踊るように走っている映像まで持っておられて脱帽した.駒場の自然は素晴らしい.でもどうしたらこんな楽しい生き物に出会えるのか羨ましい.

    ● 余イデアル部分代数に付随するK行列と行列積 (2018年秋-初冬, 2019年春)

    Gustav Delius に会ったのは 駒場での東京無限可積分系セミナーで,はるか昔の2001年10月26日(金)だった. 当時のノートが残っている. 確かセミナーのあと,当時はまだ存在していた 駒場エミナースに神保さん達と皆で連れ立って行って会食した. どういう成り行きだったか,グリム童話の「お菓子の家」で 子供を森に置き去りにしてくる親の話になった記憶がある. この時のセミナーに登場していたのが coideal部分代数と反射方程式の話だった. こちら反射方程式は90年代半ばに Murray Batchelor や堺和光くんとやって以来ご無沙汰だったので,その時のセミナーは聞いただけで通り過ぎていた. それから17年経った今年のはじめ,Pasquierさんと 反射方程式の話を再訪問したのをきっかけに昔の Gustav のセミナーの事が気になり出した. 当時(もちろん)既にR行列は理論的に十分理解されていたが, A型でもハイヤーランクかつハイヤースピンの場合はその要素をハンディーに生成する術は知られていなかった.ベクトル表現のRから出発してFusion を実行する(bottom-up)のは骨の折れる作業だし,スペクトル分解はわかっていても射影子の行列要素を全部書き下すのは大変だ,いわんや普遍Rを表現でevaluateする(top-down)のはハイヤーランクかつハイヤースピンでは現実的でない,少なくても2018年現在までに知られている技術では.従って,いろんな考察からK行列をあみだしたとしても反射方程式の成立を確認するのは容易でなく,おそらくそのせいか,解の鉱脈は未発掘のまま取り残されていた. Rに関するこの状況は,A型の場合少なくとも基本表現と対称テンソル表現に付随するものについては,四面体方程式の研究により2013年以降一変した. 今や簡潔な明示式が知られている.(世の中に浸透するにはもう数年かかるだろう.) そこで coideal 部分代数として generalized q-Onsager 代数を採用してみると, それは大き過ぎない,境界intertwining 関係式の解がつぶれないという意味で, しかも小さ過ぎない,テンソル積が既約に留まってくれるほどに. こうして反射方程式は「q-Onsager coideal」の場合には境界intertwining 関係式へと線形化される.Gustav のセミナー当時は q-Onsager 代数は知られておらず,既にここまでで非自明な要素は沢山あるが,基本的には2001年頃から期待されていた読み筋といえる.問題は,この由緒正しい K 行列に対し,どれほど麗しい明示的を構築できるかだ. 「由緒正しいものは美しい」・・・可積分系のセントラルドグマといっていい. ここで Vincent とやった3次元描像が参考になった.それを信じるなら K は行列積構造を持ってほしかった.そう仮定して境界intertwining 関係式を行列積 operator G の2次関係式に翻訳すると程なく表現がみつかった (2018年11月1日). G は q-boson を引数に持つq-超幾何級数だった. 証明は今のところ Heine の漸化式を使いまくる brute force しか持っていない. このK行列のゲージをうまくとり,q=0 の極限を取ると 反射箱玉系の超離散反射方程式(2004)の解の一つがピッタリ再現される.随分下の方にある「ソリトンセルオートマトン(主に無限系)とクリスタル」の中の [K-Okado-Yamada 2005] の記事参照.当時から超離散反射方程式はgeometric crystal版に非自明に持ち上がることから,なんとかこれをq-melting させたいと思っていた.融かすのに14年かかったことになる.
  • A. Kuniba, M. Okado, A. Yoneyama:
    Matrix product solution to the reflection equation associated with a coideal subalgebra of Uq(A(1)n-1) arXiv:1812.03767
  • プレプリントが arXiv に出ると,Vladimir(Mangazeev:下の「Stochastic R行列」の項参照) とBart Vlaar と交信があった.Bart とは以前から交信があり,2014年7月にBelgium のGhent で開催されたシリーズもの国際会議 Group Theoretical Methods... では一緒に食事したこともあった.彼らはcoideal部分代数をSatake diagram で記述し,非例外型でベクトル表現のRとカップルするK行列をある場合に網羅的に書き出すという仕事をしていた.その論文(arXiv:1602)ではq-Onsager coideal はカバーされておらず,将来の課題とされていた.
    実は上記の仕事と同時期に並行して, より単純なA型基本表現,B,D型のスピン表現の場合にも Onsager coideal のintertwinerを求め,K-Pasquierの K行列 ( arXiv:1802.09164 下の項目「量子反射方程式」参照)を再現することを確認していた.その結果の一部は2019年1月の 立教大学での研究会 でも話した. (会期中,江口徹先生は入院されていた.) 内容的には当然の読み筋だったが,論文審査,期末試験, 駒場でのIAの研究会 ,事務仕事(2018年度ポンコツ教務主任)などに忙殺されて論文の完成は著しく遅れた. 時間の自由がきく元気な若者だったらサクサクっと何ヶ月も前に終わらせていたはずの論文.
  • Reflection K matrices associated with an Onsager coideal of Up(A(1)n-1), Up(B(1)n), Up(D(1)n) and Up(D(2)n+1) arXiv:1904.05653
  • ● ランダム箱玉系の極限形状と熱的ベーテ仮説 (2018年夏)

    A^{(1)}_n 箱玉系の状態は KKR写像により 作用・角変数(rigged configuration)に変換される. 作用変数(保存量の完全な組でソリトンの振幅リストの一般化)は ヤング図のn個組でラベルされる(拙著「ベーテ仮説と組合せ論」参照). よって{箱玉系の状態}に自然な i.i.d.確率分布を入れれば {ヤング図n個組}に測度が誘導される. そこで「系のサイズを大きくした時その極限形状を決定せよ」という問題が発生する. この問題は由緒正しく, 2003年頃に作用・角変数の正体が明らかになって以来ずっと気になっていた. 一方で,ランダムなヤング図といえば Plancherel測度が有名で, 関連した極限形状問題(limit shape problem)は太古の昔に解かれ, 殿堂入りの古典的結果としてあまりに有名だった. これに比して KKR写像の知名度は O(\epsilon^2) くらい, ましてやランダム箱玉系の等位集合の極限形状という問題意識を共有できる人 は O(\epsilon^3) くらい,つまり殆どいなかった.それでも Fermionic formula と Thermodynamic Bethe ansatz (TBA) の出番だとは認識していた. それで計算を試みたことはあったけれど,貫徹せずに棚上げしていた.当時は あまりに「人里離れて」いて寂しかったのかもしれない. オハイオ州立大の Hanbaek Lyu からメールが来たのは 2018年3月5日だった. 前年の2017年にランダム箱玉系のスケーリング則に関する結果を出していた. この論文は Travis Scrimshaw から感想を求められたりして知ってはいたが, 初級箱玉(sl2 spin 1/2)限定だった. 初級箱玉はセルオートマトン界のイジング模型である. 多くの攻め手があって解いた人の数だけ解法がある. (余談:Baxter さんは「399th solution of the Ising model」という タイトルの論文を書いている.有名な K.G.Wilson の「Stat. mech. in 3.99 dim.」を もじったものか. 勿論 Baxterさんが駄作を書くわけがなくingenuity が詰まっている.) 論文が沢山出るのは良いが,各人それで満足しているのであれば 可積分系として最も重要な課題・普遍的な構造が何なのかを見失っている. 初級箱玉は氷山の一角であって,この氷山全体を仕留めることが問題の本質なのだ. ソリトン方程式でも単独なものの各論ではなく階層全体を捉えることがいかに本質 だったか想起すべきである. 箱玉の場合,その階層を生成するのは量子群の Kirillov-Reshetikin結晶であり, それを制御する可積分構造は Combinatorial Bethe Ansatz である. 単独の初級箱玉だけでなく, その階層(氷山)全体をこれらの言葉で普遍的に解かない限り, 日本料理を洋食器に乗せて出すようなものだ. 真の賞味は出来ないし,いづれ盛り付け不可能となる(汎用性に欠ける). そんなひどく高邁な偏見からか,とりあえず Han (Hanbaek) らの結果は 傍観していた. それでも Han はパワフルだ.駒場に滞在してもらって 話している(説得されている)うちに,こちらも寝た子を起こされるようになって だんだん覚醒してきた.そんな折, ランダム箱玉系に関する論文が相次いで世に出た.アルゼンチンの Pablo Ferrari のグループや日本では東大数理の佐々田槙子さん, 京大の辻本諭さん達だった. Han もいてとてもタイミングがよく(こういう幸運はしばしば起こる), 早速駒場で 6/19, 6/21 にミニ集会となった.井上玲さんも来てくれた. その時 TBA のアイデアを喋ったが,未だ結果は洗練されてなくて悲惨だった. その後 Han の帰国前になって, 箱玉キャリアのマルコフ過程とその定常状態,定常エネルギーに たどり着いた. Han は「This is cool!」と大きくうなずいた. ADE型箱玉階層全体に対して,Y-systemを用いて状態方程式を定式化し, 縦にシステムサイズ分の1にスケールしたヤング図(configuration)が Kirillov-Reshetikhin 加群の変形指標の対数微分で 記述できると判明したのは更にそれから半月程後のことだった. 箱玉とBethe Ansatz の関係で鍵となる 「Soliton/String 対応」が ランダム箱玉階層に一般化されたことになる.
  • Atsuo Kuniba, Hanbaek Lyu and Masato Okado:
    Randomized box-ball systems, limit shape of rigged configurations and Thermodynamic Bethe ansatz arXiv:1808.02626
  • キャリアによるエネルギーの記述は,保存量(ヤング図のn個組) に関して, Strong Law of Large Numbers (SLLN), Large Deviation Principle (LDP), Functional Central Limit Theorem (FCLT)を導くのに適合していた. スケールされた極限形状は,前作の結果で指標を principal specialization すると綺麗に因子化したのでその明示式を与えた. 箱玉でいうと玉 0,1,2,...,n の確率が 1,q,q^2,...,q^n に比例する状況である. Han は7月からはUCLAに移って時差が16時間あったが,いつメールしてもほぼすぐに返事がきた. いったいいつ寝てるのか不思議だった.
  • Atsuo Kuniba and Hanbaek Lyu:
    One-sided scaling limit of multicolor box-ball system arXiv:1808.08074
  • Bernard Derrida 氏の来日を機に本郷で開催された日仏共同ワ−クショップ Recent Progress in Mathematical and Statistical Physics で講演した. スライド

    ● G2型因子化散乱方程式 (2018年3月-4月)

    North Carolina 大学 Chapel Hill 校に訪れたのは 1996年の初秋. 当時知樹さんが Cherednikさんのところにいて色々お世話になった. その時の経緯についてはこのページの大分下の方の記事「角転送行列のスペクトル分解」にも少し出ている.Varchenkoさんの他に,当時そこに新任 Professor として DiFrancesco氏もいて,一回その講義にもぐった.お披露目講義だったのだろうか, 聴衆は院生だけでなくPDやスタッフも多かったようで, 質問攻めで殆ど進まない程だった.質問自体は結構マイナーなものだったが, まあこういう景色は米国では普通だろう.滞在中, Cherednikさんの家に昼食に招かれた.裏庭が池に面していて アヒルやら鴨が餌をくれそうな人を見ると集まって来る.奥さんのタチアナさんから 餌のあげ方を教わって子供が楽しませてもらった.食後のデザートの時, Cherednikさんが,アメリカのアイスクリームは大概ひどいが, 最近ようやく美味しいもの見つけたと言って冷蔵庫からその箱をいそいそと取り出し, 胸を張って皆にお披露目したのには思わず吹き出した. 確か「モーツァルト」というような名前のアイスで,上がラズベリー色, 下がクリーム色の箱だった. Cherednikさんの1984年の因子化散乱の一般化に関する論文は famous but poorly understood paperだ.何のきっかけでG2のことを 聞いたのかは思い出せない.でも黒板に3体散乱のダイアグラムを描き, 「論文には書かなかったけれど(論文書いた時には気づいてなかったけど?), Desargues-Pappus Theorem が当てはまるんだ」という話をしてくれた. Cherednikさん一流の早口でたたみかける語り口で 繰り返し「Desargues-Pappus」と言っていたのが永い間 未消化のまま引っかかっていた.16年後の 2012年11月10日,神戸の山田さんとメールで交信していて漸くPappusの定理との 関係を納得した.それから更に6年後,G2型因子化方程式 の行列式解を作ることになった.不思議な縁だ.Vincent とやった反射方程式の話を G2の場合にやれるか,と思い至ったのは2月から3月初旬にかけてだろうか, 自然な成り行きだった.特殊3体散乱に適当なq-Boson値の振幅を割り当ててG2の量子座標環のintertwining 関係式を再現できるか,という問題になる.幸いそれは可能だった.解の内の一つはintertwiner のコヒーレントベクトルに関する予想に基づくが,これはA型以外は決着していない.
  • Atsuo Kuniba:
    Matrix product solutions to the G2 reflection equation arXiv:1804.04305
  • ● 四面体方程式の簡約の一般化, 粒子とホールの混在する表現のR (2017年12月-2018年2月)

    2017年11月にOISTで New development in Teichmuller space theory というミニシンポジウムがあり,かつて駒場に在籍されていた氷上忍先生に呼んでいただいて,ほぼ20年ぶりに沖縄に行く機会に恵まれた. Rinat Kashaev とは2016夏のジュネーブの研究会以来, ジュネーブから更にもう一人 Anton Alekseev 氏が来ていて, いろいろ話せたのはよかった. ムーンビーチホテルという所に泊まらせてもらったが, その頃, [KO2013] arXiv:1311.4258 とか [KOS2014] arXiv:1409.1986 は,簡約の仕方に拡張の余地がある事に思い至り, ホテルでは専ら計算機実験をして過ごした. その後12月初旬に阪市大での研究会 Infinite Analysis 17 Algebraic and Combinatorial Aspects in Integrable Systems , 年が明けて Melbourne で MATRIX program: Non-Equilibrium Systems and Special Functions に参加,その合間に幾多の修士,博士論文審査,期末試験,会議,..と目白押しで なかなか進まなかったけれど,漸く一段落した. q振動子の生成演算子と消滅演算子を入れ換える自己同型を用いて 通常の表現をひねった表現のRが出て来る.何処でひねるかによって Dynkin図の随意に選んだ頂点ごとに粒子かホールが配置される.
  • Atsuo Kuniba:
    Tetrahedron equation and quantum R matrices for q-oscillator representations mixing particles and holes arXiv:1803.01586
  • ● 量子反射方程式 (2018年1月-2月)

    Vincent Pasquier に初めてあったのはインドの タタ研究所で開催された International Colloquium on Modern Quantum Field Theory (8-14 January 1990) で,もう随分昔のことだ. 研究所のあるムンバイは当時はイギリス植民地時代の名残を留めた Bombay という名で呼ばれていた. 宿舎の表札には Ramanujan Guest House とあった. Colloquium参加者に供される昼食は毎日カレーだったが, これが実に美味しく,カラフルで,味覚的にも視覚的にも(もちろん嗅覚的にも) 素晴らしく,飽きなかった. 赤道に近いせいで,夕日が水平線にタッチダウンするとみるみるうちに 消えていく,その速さが印象的だった. 韓国人の参加者の1人と親しくなり,街にでかけた. 彼はパリッとしたワイシャツにスラックスで, タクシーを降りると直ぐに物乞いする子供達に取り囲まれた. こちらはラフなGパン・Gジャン姿で実に助かった. タクシーの運ちゃんは大概タタ研究所を知らない. 滞在も後半になる頃にはこちらが後部座席から 運ちゃんをナビゲートするようになっていた. ボートでエレファンタ島に遠足に連れて行ってもらった. 昼食に渡されていた紙包みから目を離した一瞬の隙に猿に オレンジを奪われた. Vincent とは一緒にカーペット屋さんにいった. 並んで椅子に座らされ,サリーを来た店員が店の奥からカーペットを取り出してきては プレゼンし,解説が付く.こちらが頷くまでファッションショーのように続いた. 28年後の今年1月15日,南半球の田舎町 Creswick. MATRIX program: Non-Equilibrium Systems and Special Functions で講演したら,彼が興味持ってくれて,Matrix House では カーペット屋さんの時のように並んで腰掛けて話をした. 彼がスッキリと「TE=YBE up to conjugation」と言ってくれて, 「up to conjugation」, 「up to conjugation」というのが耳鳴りの様になっていた. (こう書いていて,巨人入団テストの早見との対決で,マウンドから駆け下りた 飛雄馬の脳裏に一徹の 「このスパイクを履いてわしはあの魔送球をあみだしたのだ」,「あの魔送球を!」「魔送球!!」...という耳鳴りのシーンを思い出した.加藤精三さんご冥福を祈ります.) 帰りの1月20日,Ballarat 駅舎のベンチ,Melbourne行きのシャトルバスの中で 話の輪郭がはっきりした.帰国して直ぐ 1月22日は昼過ぎから東京は20センチ積雪で大混乱.帰宅を諦めて 2011.3.11の夜以来初めて大学に泊まった.朝迄にチェックが終わった. 量子座標環 Aq(sp4)の intertwining 関係式は反射方程式の量子化と同定された. つまり up to conjugation で成り立つ反射方程式で,その conjugation matrix こそ Isaev-Kulish 3次元反射方程式の最初の解 arXiv:1208.1586 に他ならなかった. これは合成可能な構造をしていて,反射方程式の行列積解が系統的に生成される.
  • Atsuo Kuniba and Vincent Pasquier:
    Matrix product solutions to the reflection equation from three dimensional integrability arXiv:1802.09164
  • ● A型楕円Fusion Face模型の特殊値での因子化, sum-to-1 等 (2017春ー秋)

    夏から秋にかけてずっと血道を挙げてやってたのは別の二つの project で,そちらは結局失敗に終わった.いつか再挑戦したいが内容は今はヒミツ. こちらは余暇というか片手間仕事. [KMMO] arXiv:1604.08304 ではtrigonometric R の特殊値の因子化が鍵だった. 対応する face 模型でそのような性質があるか否かは 自然な問. 楕円でfusion した An型の模型(Jimbo-K-Miwa-Okado1989)でそれを証明した. マルコフ過程の文脈では全確率保存に相当する sum-to-1 という 関係式も気になる.これはtrigonometric のときのみ成り立つ. さらに非負性は一般には成り立たない. n=1の場合に楕円的なface 模型からstochastic 模型が 作れるだろうと謳っているプレプリントがあるが, sum-to-1 の直前で trigonometric 限定になっている. 一般には無理だと思う.
  • Atsuo Kuniba:
    Remarks on A(1)n face weights arXiv:1705.10979
  • ● Uq(A^{(1)}2) ゼロレンジ過程の密度・カレントプロファイル (2017年2月-5月)

    Uq(A^{(1)}_n)ゼロレンジ過程で大正準集団形式に移行すると, 行列積オペレーターのfugacity についての母関数が登場してくる. これはトレースクラスに属しておらず, リッドスキー定理による跡の計算が出来ない. 2016年の暮れにはフォック補助空間での固有値問題が テータ関数を用いて完全に解けたつもりでいたせいか, そのことを認識するのに「負の密度」という結果に 直面するまで2ヶ月近く費やしてしまった. 結局,まずは第一クラス粒子が有限個の状況に 限定して計算しようということになった. そうなると analysis としては初等的で, 内容的には2成分排他過程で Derrida, Janowsky, Lebowitz, Speer らが 90年台前半にやってた研究と同じノリになってくる. 「いまさら四半世紀も時間を逆行するの?」という懸念と 「せっかく去年作ったこのモデルを他の誰が可愛がってくれるの?」 という想いに葛藤したが, Vladimir (Mangazeev)は前向きでいてくれたので救われた.
  • Atsuo Kuniba and Vladimir V. Mangazeev:
    Density and current profiles in Uq(A(1)2) zero range process arXiv:1705.10979
  • ● Stochastic Zamolodchikov-Faddeev 代数の q-boson表現 (2016年8月-9月)

    Uq(A^{(1)}_n) のstochastic R を構造関数とする Zamolodchikov-Faddeev 代数のq-boson表現を作り, Uq(A^{(1)}_n)ゼロレンジ過程の定常確率の行列積表示を与える. この問は,stochastic R が stochastic であるがゆえに麗しい量子ダイログの答えを持つ. 逆に言えば,全確率保存を反映すべくピッタリ規格化された R行列の場合しか そのような表現は許されない.Zamolodchikov-Faddeev 代数 XX=SXX は構造関数 S について如実に inhomogeneous だからだ. Stochastic R がA型のランクとスピン一般の量子Rを出自とする由緒正しいオブジェクトであることを反芻すると,これが如何に基本的問題でありながら, これまで全く組織的に研究されて来なかった幸運に感謝するしかない. 前作の n=2 の場合とq=0の結果から推察するに, n 一般ではq-boson の n(n-1)/2 重テンソル積の中に表現が実現 されるに違いなかった. 今回も思いっきり計算機を使って nに対する漸化式を試行すると, 程なく予想はたった. ジュネーブでの研究会 RAQIS'16 と続く名古屋でのサマースクール Integrable Hierarchies and Beyond の間,証明がバックグランドジョブとしてずっと頭の隅で走っていた. 完遂したのは2016年9月8日. 漸化式に現れる無限級数をとりきると,やはり q-boson の n(n-1)/2 重テンソル積に住む量子ダイログが現れた. 副産物として,その中に不思議な可換族が見出されるのも興味深い.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    A q-boson representation of Zamolodchikov-Faddeev algebra for stochastic R matrix of U_q(A^{(1)}_n) arXiv:1610.00531
  • Atsuo Kuniba, Masato Okado and Satoshi Watanabe:
    Integrable Structure of Multispecies Zero Range Process arXiv:1701.07279
  • 日本数学会2017年度年会(首都大学東京)での企画特別講演(27/Mar/2017)
    Matrix products in integrable probability の講演予稿 PDF プロフィール
  • ● Uq(A^{(1)}2) ゼロレンジ過程の行列積. (2016年5月-8月)

    定常状態は,離散時間モデルではマルコフ転送行列の固有値1の右固有ベクトル (連続時間モデルではマルコフ行列の固有値0の右固有ベクトル)である. 左固有ベクトルは全確率保存から常に自明になるのとは対照的に, その双対に該当する定常状態はとても複雑である. 可積分系の場合,この複雑さがとても微妙で興味深い. というのも,そもそもマスター方程式の1次元 quasi-exactly solvable な部分空間なので,線形代数的に「algebraic」であることが保証されている. 一方,Bethe Ansatz による記述での Bethe 根は 「transcendental」である. この algebraic vs transcendental という瀬戸際に立つ対象こそが 可積分マルコフ過程の定常状態であり,そこに行列積という構造が顔を出すのだが, その構成法に未だ intrinsicな方策,理論はない. こういう問題意識を持って文献を見渡すと,行列積の論文は沢山あるものの, せいぜい 6 vertex (万民のアイドル)周辺か ハイヤーランクでもベクトル表現程度の模型に留まり, 量子群の表現論として一般的な知見を得るにはあまりに過小と言わざるを得なかった. 前作の A型 Stochastic R matrix は,この様な現状打破が 動機の一つでもあり, それに付随する Uq(A(1)n) ゼロレンジ過程の定常確率の行列積表示を考え始めたのは自然な成り行きだった. まずは Stochastic R matrixを構造関数に持つ Zamolodchikov-Faddeev代数の表現を作る必要があった. Stochastic R matrix はスペクトルパラメーターについての差法性を持たず, それ自体新しい問題である. 四面体方程式を使うと非自明な表現を組織的に作れるが,肝心のトレースをとると皆0になってしまうものばかりだった. q-bosonの 生成演算子と消滅演算子を上手く混ぜないとトレースが消えてしまう. それなら,ある次数の消滅演算子を起点として 生成演算子による摂動級数を試してみたら... いろんな状況証拠から「やれるとしたらこの道しかない,まずは n=2の場合に」 と踏ん切りが着くまで一ヶ月以上さまよった. 摂動展開も,やり始めてから軌道に乗るまで時間がかかった. ASEPと違ってゼロレンジ過程では局所状態に制限がない.これに応じて 行列積演算子自体が無限個ある.そのそれぞれが 生成・消滅演算子の級数だとして各係数にスペクトルパラメーターとq-boson の number operator の関数の自由度が必要だった. Zamolodchikov-Faddeev代数をこの係数の間のq-差分方程式に翻訳しながら, それを逐次解き進んで行く必要があった. 苦闘の末,書いた最初のプログラムは重たすぎて殆ど動かなかった. 改良の上に改良を重ねたプログラムがようやく解を捉えたのは7月初旬, 始めてから一ヶ月近く経っていた.その正体は, Soibelman の q-bosonとは 少し異なるq-boson の無限積(量子ダイログ)だった. 解が存在する保証が無く,出口の見えない長いトンネルだったが,途中, 後でプロミスや勘違いと判明した「幻の解」に何度も出会い, その度に興奮と落胆とデバッグを繰り返したので,諦めずにすんだ. ともかくそうして Zamolodchikov-Faddeev代数の表現として 望むべくものは得られたが, マルコフ転送行列の固有値1の右固有ベクトルを与えることの証明には実は もう一枚駒が必要だった.トレースの中に1をX *X^{-1} として挿入し, Zamolodchikov-Faddeev代数を繰り返し使って片割れのXをぐるっと一周させる. これによりモノドロミー行列が生成できて転送行列に近づけるというのは 誰でも考える読み筋だ.肝心なのは, 周回の後戻ってくるのは最早 Xではなくなっているのにもかかわらず, 置き去りにしたX^{-1}と相殺させ,しかもそれと同時に 何事もなかったかの様にモノドロミー行列のトレースの 和を生じさせるトリックだった. このような手品は連続時間モデルでは必要なく, いわゆる相殺機構(通称ハット関係)だけで足りていた. ここでまた2,3週間彷徨ったが,最終的には Stochastic R matrix と Zamolodchikov-Faddeev代数の表現が絶妙にかみあって上手くいくことが分かった (詳しくは論文の命題6).  この技は文献で見かけないようだ.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Matrix product formula for Uq(A(1)2) zero range process arXiv:1608.02779
  • ● Stochastic R 行列. (2016年2月-4月)

    Vladimir Mangazeev と初めて会ったのはいつだろう. 1995年の10-11月にオーストラリア国立大(ANU)に滞在した際, 確かT-system のセミナーをして,その後 John-Dedman Building の前の階段で 撮った古い写真がある. 今でもオフィスの壁に貼ったままにしているけれど,そこに Murray Batchelor, Rodney Baxter, Vladimir Bazhanov, Vlad Fridkin, Yu-kui Zhang らと一緒に写っている. Baxter邸でのバーベキューの際には彼とチェスの話題になり, 近しい人の中では亡くなった Yuri Stroganov が最強だった と聞いた記憶がある. こちらも Yuri に手ほどきを受けた事があったので,その時のエピソードを語ったりした. この頃がおそらく初めて会った頃で, 彼もロシアから新天地オーストラリアに来たばかり,思い返せばどことなく初々しい会話だった. それ以来20余年,Canberra に訪れる度にいつもお世話になってきた「もう一人のVladimir」,それがMangazeev だ. 95年の写真には,ちょっと Ayrton Senna 似のスマートガイ風におさまっている彼も,今はとっても恰幅があって堂々とした体躯の持ち主になっている. 3/8-18にANU で一緒に過ごし,議論できたのは幸いだった. 帰国すると程なく大阪での研究会 New Developments in Integrable Systems があった. 夏のCanberra からまた冬に逆戻りだったが,Kirone Mallick, Ivan Corwin, Jan deGier, Thomas Lam 達と 天王寺アベノハルカスにお上りさんしたり,難波えびす橋でお好み焼き+たこ焼きアドベンチャーしたりと皆で大阪を楽しんだ. 4月になると Journal of Physics A のBoard Member 会議で London に. 九大の梶原健司さんと一緒に昼食を取りに行き,思い切って「Jacket」 というのを頼んでみると,ベイクドポテトが出てきた. 去年に継いで Rafael Nepomechie に会い, Petr Kulish さんの追悼特集号のGuest Editorするらしく, 寄稿依頼を受けた.すでに dedicate した論文(下の多状態TAZRPそのII)はあるが, Kulish さんとは80年代後期に京都で御一緒させて頂いて,関東では 筑波大の表実先生の研究室まで一緒に旅したこともあり,是非寄与できればと思う. 帰路,Great Portland Street から地下鉄に乗り,Baker Street で乗り換え, Paddington 駅に.お決まりのコースだったが地上に出て,朝の ラッシュアワーの雑踏の中でキョロキョロしていると Eddie Murphy似の警備員風のお兄ちゃんが目ざとく 「Can I help you sir?」と来てくれたので,Heathrow Express の乗り場を探してる と言ったら,テキパキと教えてくれる. 礼を言って行きかけたら,後ろから「Nice Jacket !」と声がかかった. 思わず振り向くと,ウィンクしてニヤリとしていた.楽しい朝だった. それにしても2度目の Jacket. . , London magic というべきか.. 出張中は,会議以外の時間は滞在したホテル, ヒースロー空港の待合,往復の機中まで,ひたすら Bethe eigenvalue を Markov 行列にadjust する計算に没頭した. Baxter Q 関数やベーテ根の convention を上手く調整しないと合わない. その苦戦のまっただ中に斬りこむように,日本から矢の様に,滝の様に 「今直ぐ!」つきの事務処理依頼のメールが来る. 「いまこっちは London にいて 編集会議とBethe根と時差との格闘の真っ最中なのに, これってありかーっ!!」と叫びたかったが, 山中鹿介の名言,Star Wars VII の Daisy Ridleyの 「I can do this!, I can do this!!」もみんな借用してなんとか乗り切る. (Han Solo生きていてくれ!) 論文完成を急いでいた. Povolotsky のq-Hahn process の遷移レートを見た瞬間にRの特殊値だと直感したのは 2月中旬だった.ただし勿論A^{(1)}_1に過ぎない.2月20日のお茶大での 竹山美宏氏のセミナー を聞きに行った時には一般の A^{(1)}_n で予想を手にしていたが, まだ登山としては3合目くらいだった. 暫くして n=1 では Borodin, Corwin, Petrov がRとの同定を プレプリントにしていた事を知った.それもごく最近1年程の間に. この時ようやく去年の 自分のセミナー の帰りに丸の内線の中で笹本さんに最近の話題を聞いたら 「Corwinがハイヤースピンやっちゃったんですよね」って言ってた事を想起し, その意味をかみしめた. 彼らのやり方は,Mangazeev による明示式を用いて Gasper-Rahman に載ってるような q-hypergeometric の公式を駆使するもので,計算に耽溺していた. もっと汎用性のあるスマートな方法でないかぎり一般のランク を手なづけられるべくもなかった. そうして量子 Rを stochastic にしたい.これは概ね gauge の調整という一見 些細な事ながら Canberra 滞在を含め ピッタリ合わせるまでに紆余曲折あって丸一ヶ月かかった. Corwin の大阪での講演を聞きながら百の想念が頭を巡っていた. その時点で stochastic gauge は一般の n で同定できていたが, 全確率保存条件までは証明していなかった. それが解決したのは3月30日. この条件は stochastic R が sum-rule という一群の等式 を満たすことを主張する. 実は,これらは最高ウェイトベクトル上で量子Rが自明に1に規格化されるという関係式 の古典部分代数 U_q(A_n) によるオービットそのものだった.
  • Atsuo Kuniba, Vladimir V. Mangazeev, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Stochastic R matrix for U_q(A^{(1)}_n) arXiv:1604.08304
  • 5月に入って,マルコフ転送行列の対数微分 (Baxter公式)は2箇所で 適用可能な事が判明した. その結果得られる二つの連続時間マルコフ過程には 単純な関係があり,スペクトルは一致する.これに応じてBethe方程式にもinvolusion が作用し,固有値公式が移り合う.これらの事情を追加して v2 に更新した.

    ● 多状態TAZRP(totally asymmetric zero range process).そのII (2015晩秋)

    そのI 論文(前々作)の n状態TAZRP 定常確率の行列積表示に対し, いわゆる「相殺機構」ないし「ハット関係式」による別証明を与えた. これは非局所的な演算子(角転送行列もどき)の 間の関係式であるが,q を導入して融解し,3次元格子模型の 層転送行列に埋め込み,その双線形関係式へと格上げしてやると 最終的にたったひとつの局所的関係式に集約される. それこそが四面体方程式であり,関与する解は Kapranov-Voevodsky による量子座標環の Intertwiner (通称 3DR)であった. n状態TASEP の場合はこれが 3DL だったことを思えば 姉妹模型とみなすにふさわしい.もちろんそれが読み筋であった. 古くなったテレビを廃品に出そうと運んだせいで 背中と腰が痛い痛いと苦しんでた2015年12月中旬, 大阪市大に出張してホテルで安眠出来ないほどだったけれど, なんとか東京に帰る前に証明を完成できたのが救いだった. n-parameter化論文(下参照)の方が先に脱稿したが, そっちをやり始めたのは,この証明の後だった. この論文の執筆を「再開」したのは2016年の2月になってから. その仕上げの最中の2月11日に駒場でチェスイベントがあり, 脳研究の酒井邦嘉さんのつてで, 隣の研究室の加藤雄介さん共々参加する機会に恵まれた. グランドマスターの Naiditsch さんの30面同時対局の一人に. 流石に手も足もでなかった. 早々に負けて控室に引き上げてきたら,まだそういう人が少なかったせいで, 主催者の一人の将棋の羽生さんが棋譜をもとにマンツーマンで 感想戦指導をしてくださり,傍らから ジャックピノーさん,小島慎也さんといったチェス界のスーパースターの皆さんからもいろいろ解説してくただく,というありえないような貴重な体験をした.
  • Atsuo Kuniba, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Multispecies totally asymmetric zero range process: II. Hat relation and tetrahedron equation (Dedicated to the memory of Petr Kulish) arXiv:1602.04574
  • ● 多状態TAZRPのn-parameter化 (2015師走-2016睦月)

    n 種粒子完全非対称ゼロレンジ過程(n-TAZRP) の 遷移レートを粒子の種類に応じて非一様化し, n-parameter 入りのモデルに拡張できる. これを上手くやると定常確率の行列積表示が作れるものになる. 組合せRや四面体方程式に依るアプローチとは違い, Prolhac-Evans-Mallick や Arita-Mallick の様なやり方で, 証明は所謂 hat relation による. 正月に京大の加藤周さんと東大の斎藤義久さんの主催した Winter School on Representation Theory 2016 が駒場であり, いろいろ貴重な勉強をさせてもらいながら, 煩雑な hat relation をどう手懐けるか気になっていた. 最後は,結局 brute force による「ラスボス退治」になった. あまりに長く論文には書けない計算. いつか人に語れる証明にすべき. 1999年の夏頃だったか,「C2型箱玉系の散乱則=組合せR」 の証明を,高木君,幡山君とゴリ押し計算でやった時の煩雑さを想起した.
  • Atsuo Kuniba, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Inhomogeneous generalization of totally asymmetric zero range process arXiv:1602.00764
  • ● 多状態TAZRP(totally asymmetric zero range process).そのI (2015夏-秋)

    Ferrai-Martin による多状態TASEP の定常状態構成法は, 今年初夏の論文(後出の「多状態TASEPと組合せR」の項参照)で 完全に crystal と組合せ論R に翻訳された.そこでは 完全反対称テンソル表現の crystal が用いられたが,これを完全対称テンソル 表現に置き換えたら何がでてくるか,という問は誰でも思いつく. 早速そのような「定常状態もどき」を生成し,それをナルベクトルに持つ マルコフ行列とは何か?という逆問題となった. 定常確率に対して,0-振動子値頂点模型による行列積表示を初めから手にしていたので,そこに登場する角転送行列の構造定数を計算するというルートを辿った. この構造定数がマルコフ遷移を定めているからだ. 夏休みだったか,粒子の種類が2の場合に丸山くんと尾角くんと3人で ゴリゴリやってると,``At the end of the day" に多状態TAZRPが浮かび上がって来た. そこから先はいろんなことが直ぐに収束していった. どうやらTAZRP でかつ多状態にした模型は未開拓問題だったようだ.
  • Atsuo Kuniba, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Multispecies totally asymmetric zero range process: I. Multiline process and combinatorial R arXiv:1509.09018
  • ● 多状態TASEPと四面体方程式 (2015夏)

    多状態TASEPの定常状態の行列積表示に現れるオペレーター X_iは q=0振動子に値をとる5頂点模型の角転送行列だ.X_iとその コンパニオンオペレーター \hat{X}_i の2次の関係式 (業界では 「hat 関係式」と呼ばれる)を示せば, Ferrai-Martin 流の組合せ論に依らずに行列積表示が証明される. 実は hat関係式は四面体方程式の遙かなる帰結だった. 実際,hat関係式をまずスペクトルパラメーターを導入して微分関係式に持ち上げ, 次に微分関係式を差分関係式に持ち上げ, 更にq-melting して3次元格子模型の層転送行列の2次関係式に埋め込んでみると 全ては四面体方程式から従う. 多状態TASEPの定常状態の可積分性は四面体方程式に集約されたといえる.
  • Atsuo Kuniba, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Multispecies TASEP and the tetrahedron equation. arXiv:1509.09018
  • Baxterさんの75歳記念にケアンズで開催された研究会 Baxter2015:Exactly solved models and Beyond での講演資料. PDF
  • ● 多状態TASEPと組合せR (2015初夏)

    多状態TASEP の定常状態のFerrai-Martin アルゴリズムと組合せRのNYルールが似てることは以前から気になっていた.関与するのは実は箱玉系で沢山使われた対称テンソル表現ではなくて,反対称テンソル表現のクリスタルだった.そのせいか 両者が関係することは衆人の目を免れていたようだ. タイミングよく四面体方程式の研究から,組合せRに対して5頂点模型のL-operator の行列積表示を得ていたので,それと合わせるとTASEPの定常状態に対しても 新しい行列積表示が従う.お茶大での数理物理・物性基礎セミナー(6月6日)で話をする機会を頂いていろんな人からコメントもらえたのは幸運だった. よくよく調べると背後で諸事をコントロールしているのは 四面体方程式であることが判明するが,これについては第二報で公開予定.
  • Atsuo Kuniba, Shouya Maruyama and Masato Okado:
    Multispecies TASEP and combinatorial R. arXiv:1506.04490
  • ● 四面体方程式とGeneralized quantum group の量子R (2014春-2015春)

    Kapranov-Voevodskyによる四面体方程式 RRRR = RRRR の解 R に対する 線形補助問題(量子座標環のIntertwining 関係式)は RLLL=LLLR というもので, やはり四面体方程式の構造をしている.よって R または L からなる任意のn重積 に対して2次元簡約が可能であり,2のn乗個の Yang-Baxterの解が生成される. これらの正体は何か.L だけのn乗と R だけのn乗の場合は 2012年,2013年の論文で 決着していたが(以下の項目参照),フルな問は実はこの様にはるかに広い. 去年(2014)の4月,London での Journal of Physics A の Board meeting の頃に計算を始め, 解のcommutantの構造は程なく判明していたが, R と L の入り乱れた状況でテンソル積表現の既約性を証明するのに手間取り, 結局1年近くかかってしまった.答えは Hechenbergerや山根宏之さん達が導入した Generalized quantum group の量子 R だった. 例えば境界ベクトルを用いた2次元簡約で R と L の因子の数を順次変えていくと, 表現と同時に,関与する代数自体も 量子アフィン・リー環 U_q(D^{(2)}_{n+1}) から 量子スーパーリー環 (osp(2k+1,2n-2k)の q変形のアフィン化, k=1,...,n-1) を経て別の量子アフィン・リー環 U_{-1/q}(D^{(2)}_{n+1}) へと移り変わっていく. 2015年2月16日から25日までSergey に呼んでもらって Canberra の Belconnen に滞在した. Cairnsでの飛行機乗り継ぎ失敗などもあったが, Bazhanovさん邸の夕食に招かれて Baxterさん夫妻とも久しぶりに再会できたのは貴重だった. この7月に Baxterさんの75歳を記念してCairnsで国際会議が開かれるが, それに併せて出版される Journal of Physics A の Special Issue に dedicate した. 脱稿すると Sergey から日本語の「打ち上げメール」が届いた. 次回は「大阪弁メール」に挑戦するよう尾角くんの激励があった.
  • Atsuo Kuniba, Masato Okado and Sergey Sergeev:
    Tetrahedron equation and generalized quantum groups. arXiv:1503.08536
  • 南イタリア,ガリポリのビーチリゾートでの研究会 Physics and Mathematics of Nonlinear Phenomena 2015 に参加した. オハイオ州立大の児玉さん夫妻を初め,Leeds の Mikhailov さん一家など お世話になり,Deep な一週間だった.初めてイオニア海で泳ぎ, アドリア海へもボートで遠足したりして貴重な体験だった. ボートが洞窟のそばにつくとロシア人を中心に皆もう待ちきれないとばかりに 次々と海へ飛び込んだ.Dubrowin,Wiegmann,Mikhailov,... 皆プカプカと波間に浮かび,ボートの上では Kac がニヤニヤしている というユーモラスな光景が現出した.
  • Physics and Mathematics of Nonlinear Phenomena 2015 (20-27/June/2015, Gallipoli, Italy) での講演資料. PDF
  • 上記研究会 PMNP2015 の Prodeedings には, Trace construction による2次元簡約で得られた R で q=0 とした場合の結果を追加した.因子 R と L の取り方に応じて 対称テンソル表現と反対称テンソル表現の組合せRの混合 ともいうべき Yang-Baxter map が生じる.
  • Atsuo Kuniba:
    Combinatorial Yang-Baxter maps arising from tetrahedron equation. arXiv:1509.02245
  • ● 3次元反射方程式の解 K の多項式表示 (2014 秋)

    Isaev-Kulish の3次元反射方程式に対して 2012年に解 K を構成した (以下の「ツタンカーメンのお墓」の項参照). ただその明示式は, モジュラス q あるいは q^2 の q-factorial 因子が分子に7個,分母に 13個も 並んだ比の4重和であり,煩雑で悲惨だった. 今回想うところあって丸山くんと再トライした.オーバーオールを上手く調整すると, Fock空間の粒子数を数える4変数に関して多項式を取り出すことが出来て, 量子座標環との可換性はそれら多項式の族に対するq-差分方程式に翻訳された. 4というのは C2の正ルートの数に対応する. 差分方程式を解いていくと,またしても結果はさほど単純には表示されないが, ともかく K の行列要素は 多項式の変数をq-振動子の固有値に特殊化したものだという構造をもった明示式 を与えることができる.「何を想ってそのような」という問には 語れる日が来ることを期す.
  • Atsuo Kuniba and Shouya Maruyama:
    A polynomial formula for the solution of 3D reflection equation. arXiv:1411.7763
  • ● 3次元 R とモジュラーダブルの量子R (2014 夏)

    四面体方程式の解(3次元R)を特徴づけるのは量子座標環のSoibelman 表現であるが, これは物理の用語では q-振動子代数のFock表現のこと. q-振動子代数の表現としてq-ワイル代数へのHomを介した 所謂「モジュラー表現」をとると,3次元Rは Faddeevの量子ダイログ を用いて表されるものになる. このモジュラーな状況下で,Yang-Baxter 方程式への簡約は可能か, もし可能なら生成される解は,どのような量子群の量子Rになるのか. そんな事を思っているうちに ベルギーのGhentでの研究会が終わり, Sergey Sergeev (下の「Tetrahedron 方程式とスピン表現のR行列」の項参照) が再び駒場にやってきた. 相変わらずのヘビースモーカー. 寿司,刺し身が大好物で昼食はほとんど 矢内原門の下の英香だ. 簡約するための境界ベクトルは2種類ある. ただしその波動関数は,Faddeev の量子ダイログのようにモジュラー双対への変換で 不変な関数でなく,非対称な関数になった. でも結果的にそれが良かった. 2種類の境界ベクトルは,Dynkin図の端の2重線矢印に 外向きと内向きの2通りがあることに対応していて, モジュラー双対への変換で互いに移り合う(!)ことがわかった. これにヒントに顧みると,量子アフィン・リー環 U_q(D^{(2)}_{n+1}), U_q(A^{(2)}_{2n}), U_q(C^{(1)}_{n})からq-振動子代数のn重テンソル積への代数射 が見つかった.単純な事実だが,見過ごされていたようだ. これらのモジュラー対の相手はDynkin図の矢印を逆転した Langlands dual量子群である. 結局四面体方程式からの簡約で得られる Yang-Baxter 方程式の解は, これらのモジュラーダブルの量子Rだった.
  • Atsuo Kuniba, Masato Okado and Sergey Sergeev:
    Tetrahedron equation and quantum R matrices for modular double of U_q(D^{(2)}_{n+1}), U_q(A^{(2)}_{2n}) and U_q(C^{(1)}_{n}). arXiv:1409.1986
  • 名古屋のクラスターの研究会で Ip に会ったらさっそく skim したと言われた. どうやらスマホで論文読んでるようだ.櫃まぶしの店も手羽先の店も こっちよりはるかに良く知っている.彼らしい.

    Japan-Hungary Joint Research Project Workshop (京大理学部 2014.Sep.22-23) に呼んでいただいた.Wigner Research Centre の Bajnokさん,Balogさんの 講演をはじめ,いろいろな人との再会もあり,それに続いて3日間(Sep.24-26)駒場の 風間さんのAdS/CFT対応と可積分系の集中講義もあって,盛り沢山な一週間だった. 同時期に数学会が開催されていたが,久しぶりに物理の研究会に出てよかった. 講演資料 PDF

    ● Tetrahedron方程式と q-oscillator 表現の量子R行列 (2013 夏-秋)

    Kapranov-Voevodsky による量子座標環のintertwiner は U_q(sl4)のPoincare-Birkhoff-Witt (PBW) 基底の遷移行列 に一致し,Tetrahedron 方程式のq-boson解を与える. この3次元R (3dRと呼ぼう) には固有値1の固有ベクトルが2種類ある. これらについて3dRの第3成分の行列要素をとると Yang-Baxter 方程式の解として4種類のものが生成される. これらは通常の量子群のintertwiner として何者だろうか?  これは 2012年の3月にCanberra に滞在した時以来の Question であった. 2013年6月19日,ようやく重い腰をあげて, 3次元系として1サイトの最も簡単な状況を 大阪市大の尾角くんの部屋で調べ始めた. (訪問先の移動に伴い,こちらも大阪での行動範囲が 豊中や千里中央から住吉区や堺方面に移動した.) 答えはランク1のアフィン・リー環 A^{(1)}_1 と A^{(2)}_2 の 量子展開環 の intertwiner であり, 付随する表現はこれらの古典部分代数の Verma module を アフィン化 したq-boson Fock 表現であった. 1サイトなのでランク1になるのは自然. ただし2種の固有ベクトルから2つのランク1アフィン・リー環が カバーできるのは多少興味深い. 2カ月ちょっとで済んだが,その間7月末に Seoul 国立大 の StatPhys25 に出て北朝鮮との国境近くまで遠足したり (繰り込み群の Kenneth G. Wilson が亡くなったのはこの時初めて知った), 8月初旬の京都での研究会などいろいろあった. 4種類の解のうち,どうしても合わないと言ってた場合が 実は A^{(1)}_1 ではなくて A^{(2)}_2 なのかも,と言い出したのは 二人で数理解析研の一階のお茶飲み部屋のホワイトボードに向かっていた 8月2日の夕方だった.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Tetrahedron equation and quantum R matrices for infinite dimensional modules of U_q(A^{(1)}_1) and U_q(A^{(2)}_2) J. Phys. A: Math. Theor. 46 (2013) 485203, 12pages arXiv:1308.6473


  • 上の論文はイントロに「2d-3d対応の包括的描像」のような文言があったせいか, レフェリーから章を追加してもっと詳しく述べよとの注文が来た. 出版されたのは新たに5章が加わったバージョンである.

    9月17(火), 18(水), 19(木): 駒場,数理科学研究科で連続講演. 土屋先生からいただいた題目は「転送行列,Yang-Baxter方程式,Bethe仮説」. 今回もいろいろお世話になった.

    松山での数学会から戻ると, 前作で登場したq-oscillator 表現は自然にハイヤーランクに 伸びることが分かった.ただし A^{(1)}_1 は A^{(1)}_n になるのではなく, D^{(2)}_{n+1} と C^{(1)}_n になる.どちらも n=1 はA^{(1)}_1だ. A^{(2)}_2は素直に A^{(2)}_{2n} に伸びた. 1990年に名古屋大の林君がA^{(1)}_{n-1}と C_n で作っていた表現の親戚とみられる. ただし,古典部分代数として B_n を含む場合は q=1 が特異点となり,そのせいか これまで報告されたことがない表現のようだ. 3dR の n-サイト積の第3成分の行列要素から Yang-Baxter 方程式の解が生成される.それらは D^{(2)}_{n+1}, A^{(2)}_{2n}, C^{(1)}_n の q-oscillator 表現の量子 R に違いなかった.正確に合わせるのに 試行錯誤は要ったが,ここまで来れば獲物のかかった網を絞っていくだけである. ほどなくして予想は立った. ただ,証明でランク1の時にはなかったハードルとして 3dR の双線形関係式を 示さねばならなくなった.量子座標環のintertwining 関係式は勿論1次であり, 2次のものは初お目見えである. 計算機でチェックすると確かにOKだが,11個の整数変数を含むqの有理式である. どう料理すべきか目途がたたずしばらく茫然としていた. こういう時は旅をするのがいい.(アイデアは移動距離に比例する?) よくよく睨むと1次の関係式をどう組み合わせたらいいのか見えてくる. 片付いたのは2013年10月7日未明,大阪だった.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Tetrahedron equation and quantum R matrices for q-oscillator representations of U_q(A^{(2)}_{2n})}, U_q(C^{(1)}_{n})} and U_q(D^{(2)}_{n+1})}. arXiv:1311.4258
  • The 30th International Colloquium on Group Theoretical Methods in Physics (14-18/Jul/2014, Ghent Univ. Belgium) での講演資料. PDF
  • Ghent での会議の Proceedingsの論文.上の arXiv:1311.4258 のダイジェスト版で, 3次元 R の新しい明示式とq-振動子表現のテンソル積の既約性の証明が 補足されている.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Tetrahedron equation and quantum R matrices for q-oscillator representations. arXiv:1411.2213
  • ● PBW基底と量子座標環(1/March/2013)

    Kapranov-Voevodsky や Bazhanov, Mangazeev, Sergeev らによる四面体方程式の解(次の記事参照)が sl_3の量子展開環の正部分の Poincare-Birkhoff-Witt (PBW) 基底の遷移行列に一致することは 2008年にSergey Sergeev により指摘されていた. 彼との会話ではこの話題を逸してしまい, ごく最近まで認識せずにいた. 昨年(2012)夏の国際高等研でのTolya(Kirillovさん) との会話(次の記事参照)が脳裏をよぎる. 四面体方程式の解は量子座標環のintertwinerであり, この一致は一般の Uq(g) に持ち上がることが期待された. 昨年夏に論文を準備中と言っていたBazhanov さんも3月初旬には 三輪さん・Kirillovさん退官記念の京都の研究会 Infinite Analysis 13 にやってくる... 時間が切迫していた. そんな中,2013年1月下旬,神戸大の山田泰彦さんの部屋に 尾角くんと一緒にお邪魔していたら,T先生(2012/Oct/22の記事参照)から 「定例のホットライン」お電話がかかってきた.「国場さんなら丁度ここにいますよ」 と言って取りつがれ,思わぬ依頼を受けてしまった. その直後ロシアに2週間ほど行かれたので,ほとぼり冷めるかもと期待したが, 帰国後駒場にやって来られて直に「はらをくくってください」と言われしまいカンネンした. 2013年2月18日-20日,神戸と駒場から 阪大の尾角君の所に疎開(笑)してどうにか完成した論文.
  • Atsuo Kuniba, Masato Okado and Yasuhiko Yamada:
    A common structure in PBW bases of the nilpotent subalgebra of Uq(g) and quantized algebra of functions. SIGMA 9 (2013), 049, 23 pages arXiv:1302.6298


  • なお,C型の場合を含む日本語の要約は 京大数理解析研での研究会 「Combinatorial representation theory and related topics」 (9-12/Oct/2012)の以下の会議録にも載せている.
  • 国場敦夫,尾角正人,山田泰彦:
    量子座標環,PBW基底と3次元反射方程式, 数理解析研究所講究録 1870 (2013) p106--114. PDF
  • 三輪さん,Kirillovさん退職記念研究会でBazhanov さんに会った. 紳士協定(?)ともいうべきか,お互い「その話題」には触れずに 研究会を楽しんでもらえたようだった. ただ,バンケットのスピーチのときだけ一言, 「研究会に間に合えばよかったが, ともかく今ようやくKirillovさんと初めての共著になる big paper を準備中」とのことだった.以前からBazhanovさん達のやっている量子幾何 の観点の論文のようでもあり,楽しみだ.

    ● Tetrahedron 方程式,3次元反射方程式と量子座標環 : ツタンカーメンのお墓 (2012年夏から秋)

    Lie環 g の量子展開環 Uq(g) の双対にあたる量子群 Aq=Aq(G) は 「Lie群 G 上の関数環のq変形」とか 「量子座標環」と呼ばれて,量子群が勃興した80年代後半から90年代 前半にかけていろいろ研究された. その中でも Kapranov と Voevodsky は, Solibelman によって分類されたAq(G)の 既約表現の intertwiner は,GがA型の場合に Zamolodchikov Tetrahedron 方程式の解をあたえる事を1994年に指摘していた. この素晴らしい発見はその後完全に忘れられていたといってよい. 引用している文献は少なく,危うく見逃すところだった. おそらくその理由として,Kapranov-Voevodsky 論文の該当箇所は誤植だらけ, わずかに反応した Kazhdan-Soibelman 論文もほとんど同じ誤植を 繰り返すのみという有様だったことが大きいと思う. 実際,最初は彼らの言ってることが全くチェック,再現できなかった. 尾角くんと「何が何だか分からない」状態で 2,3週間迷走したあげく, ある時ふと見ると Aqの intertwining 関係式の一つが Bazhanov-Sergeev (2006)の 「量子Korepanov方程式」と一致していた. Bazhanov-Sergeev による Tetrahedron の解(2006)は 実は Kapranov-Voevodsky が1994年に 誤植満載で書き下した Soibelman 理論による同型写像だったのだ. Kapranov-Voevodsky の「解」は他の intertwining 関係式を辿って 得られる別の明示式であった.
    そんな成り行きから自然にBCF4型への拡張を考える様になって 出来あがった論文. 4次の Coxeter 関係式に対応する同型を明示的に構成して 3次元版反射方程式を満たすことを示した. IsaevとKulish が1997年に提唱したtetrahedron 反射方程式の 行列版になっている. 今年3月にCanberra に滞在したとき, Bazhanov(VVB氏)が 「Isaev-Kulish 方程式は誰ひとりとして解を作れたためしがない」 とブツブツ言ってたのを思いだす. 「F4版 tetrahedron 方程式」も書いた. 長さ24の Weyl群の最長元の反転パズルのあげく 「50個の因子の積 = 50個の因子の積」となったが, 計算機にかけてみると確かにチェックOKだ. Yang-Baxter方程式は「3個の因子の積 = 3個の因子の積」 だったことを省みると計算機パワーの向上も感慨深い.
    Uqの intertwiner つまり量子R行列は, 2次元可解格子模型,場の理論という応用上の動機からも 80年代から徹底的に組織的に調べられてきたのに, Aqについては21世紀に入って10年以上も経つというのに よくぞ「手つかず」に残されたものだなあ,... ツタンカーメンのお墓でもあるまいし,... そんな楽観をいだきながら 尾角くんと国際高等研の研究会 「Algebraic Combinatorics related to Young diagrams and Statistical Physics」 (6-10/Aug/2012)に出ていた.論文完成直前だった.そこで Tolya (Anatol Kirillovさん)に会い, 3人で「近じか共に The XXIX International Colloquium on Group-Theoretical Methods in Physics (20-26/Aug/2012, Tianjin, China) に参加しますね」なんて話をしていたら, Isaev 氏も参加予定と伺って,ほぉーっと思った. 更に話していると,なんとTolya は Uq の PBW 基底の方からTetrahedron や3次元反射方程式 に迫っているとのことだった. ぎょっ何という偶然! いや,やはり Kapranov-Voevodsky は 多くの人の心の奥に引っかかっていたんだなあと思いを新たにした.
  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    Tetrahedron and 3D reflection equations from quantized algebra of functions. J. Phys. A: Math. Theor. 45 (2012) 465206, 27pages [IOP Select: Nov/2012] arXiv:1208.1586
  • (Journal of Physics A Highlights of 2012 collection に選出.)

    プレプリントが arXiv に載ると案の定 Bazhanov さんから反応があり, いろいろ通信した. Korepanov 氏からは 「It is great that you are working in the beautiful field of Zamolodchikov tetrahedron equation.」 というコメントをいただいた.
  • The XXIX International Colloquium on Group-Theoretical Methods in Physics (20-26/Aug/2012, Chern Inst. Math. Nankai, Univ. Tianjin, China) での講演資料. PDF
  • 後日談:中国の研究会で Isaevさんと初めて会った.Kulish さんも来ていて 数年前の駒場以来の再会だった.よもやこの二人の前で話をすることになるとは あまりにタイムリーだった.講演の後暫くして Isaevさんが声かけてきて, 我々の3次元反射方程式は,境界上の自由度を 落とさなくても彼らのtetrahedron 反射方程式に一致しているとの事だった. 彼らの論文ではスペクトルパラメーターとベクトル空間を同じ記号で表しているので 見えにくいが,前者を落としても後者は残るとのこと. 結局,彼らの式の行列版ではなく,そのものであり,提唱から15年を経て初の解 ということだった.Isaev さんは,境界で反射するストリングを(ページを開いて立てかけてある)「book」と表現する楽しい説明をしてくれて, こちらが合点がいったところで,ニッコリしながら coffee break の人波の中に去って行った.
    京大数理解析研での研究会 「Combinatorial representation theory and related topics」 (9-12/Oct/2012)で話した.
    先に求まったのはC型の解で,Aq(C2)のintertwinerである. 当然次の問題として Aq(B2) はどうなるかだが, Aq(B2) の表現は複雑で,そのintertwining 関係式もしかりである. 九大での数学会の帰り,到着した羽田空港からそのまま救急車で病院に搬送されて 入院(9/19-10/2)していた病室で試みたが, 行列要素の漸化式を解きあぐねていた. 退院してすぐ, B2 と C2 は同型だが Reshetikhin-Takhatajan-Faddeev 流に生成元と その RTT 関係式により Aq を定義すると Aq(C2) と Aq(B2) は同型にならず, 後者は前者の部分代数となることに尾角君と気付いた. 表現の形から生成元の埋め込みの式は容易に推察された. ただそれが代数射になってることを確認するのは大変だった. 関係式はAq(C2) と Aq(B2) それぞれで 数百個あり, どれをどう組み合わせたら上手くいくのか不明だった. 数百もあったが有限個なので,結局 Mathematica で 強引にやらせることにした.適当な正規順序を設定し,Aq(C2) の生成元の4次式を 数百の関係式を用いて簡約していくという作業だ. まずい``local minimum"に引っかかって簡約されきらずに 残る bad case が 317 個,翌日には 203 個という調子で 減っていった.プログラムの改良を重ね, 最終的に 10月17日 の 15時33分に 0 個になった. Mathematica にこんなに brute force calculation をやらせたのは 久しぶりだった.ともかく 3D reflection 方程式の「B 型の解」 (予想としては前論文)が得られ,8月の中国の研究会の proceedings の締め切り(10/31)に間に合った,というのが以下の論文.

  • Atsuo Kuniba and Masato Okado:
    A solution of the 3D reflection equation from quantized algebra of functions of type B. arXiv:1210.6430


  • なお一旦脱稿した後,3次元反射方程式のダイアグラムを追加した. 境界で反射する3枚の平面を2次元射影した図で, 本邦初公開.境界に限定すると Yang-Baxter 方程式の絵になっている. 3冊の薄い本を任意の角度に開き,背表紙を下にして机に (表紙側にも背表紙側にも傾けずに)置いた時に, 本の表紙と裏表紙がつくる幾つもの交線を机に射影した図である. 背表紙と背表紙の交点に4次の Coxeter 関係に付随する intertwiner K を,表紙ないし裏表紙3枚の交わりには 3次の Coxeter 関係に付随する intertwiner R を対応させると,3次元反射方程式 RKRRKKR = RKKRRKR がごく自然な幾何的意味を持つことがわかる.
    余談:脱稿間近の2012年10月22日のお昼頃, 駒場生協の書籍部でぶらぶらしていたら,レジで背後から 「国場さん久しぶり,こんにちは」と声をかけられた.土屋昭博先生だった. 駒場の数理に共同研究で来られているそうだ. 矢内原門を降りてすぐのケーキ屋さんでお茶をご一緒した. 名古屋,京都,関西セミナーハウス,城之崎,駒場,富士山,...と何度お世話になったことだろう. 既にIPMUも退職されていたが,ノートを取り出すと,お茶もそこそこに 式を書き始め,最新の土屋理論を熱く語られた. 詳しい内容はあまり解せなかったけれどジーンとなった.

    ● Tetrahedron 方程式とスピン表現のR行列(2012年春)

    Sergey Sergeev は麗しく柔和な人あたりと 方程式に対する eccentric な感性を持つ友人. 初めて会ったのは前世紀末頃と思うけれど 正確には彼も僕も思い出せない. Canberra に行くといつも会えたし,2009年の Cambridge でも一緒だった. 多くのロシア人スモーカーのなかで,彼は僕の知る限り最大のヘビースモーカーだ. 2011年秋に駒場で過ごしてもらった時にはキャンパスが全面禁煙なせいで 喫煙量が少し減ったらしい.彼の健康をせつに祈る. 2012年3月にキャンベラに滞在した際,帰国前日に脱稿し, Vladimir Bazhanov 氏にその還暦を祝して手渡しで捧げた論文.
  • Atsuo Kuniba and Sergey Sergeev:
    Tetrahedron Equation and Quantum R Matrices for Spin Representations of B^{(1)}_n, D^{(1)}_n and D^{(2)}_{n+1}. Commun. Math. Phys. 324 695-713 (2013) arXiv:1203.6436


  • Springer と通信が滞っていたふしがあり, 投稿から出版まで1年半以上もかかった.ちょっと懲りた.
  • 日本数学会 秋季総合分科会(19/Sep/2012)での講演資料. PDF
  • ● 箱玉系のレビュー

    2010年の秋頃,それまで英語で読める適度なサイズのレビューが無かったので, 笹本さんが示唆されて,井上さん,高木君と執筆することになったもの. はじめてDropBoxを活用してとても便利だった. 執筆開始したときは,和達先生に捧げることになるとは思いもよらなかった. 先生のご冥福をお祈りします.
  • R. Inoue, A. Kuniba and T. Takagi:
    Integrable structure of box-ball systems: crystal, Bethe ansatz, ultradiscretization and tropical geometry, J. Phys. A: Math. Theor. 45 (2012) 073001, 64pages arXiv:1109.5349
  • ● 「 ベーテ仮説と組合せ論 」 (朝倉書店)

    執筆のお話をいただいてから,永い年月がたってしまったが, 2011年6月25日に出版された.200ページ程度に収めるのが厳しく, かなり詰め込んだ感もある. 終盤の1/3が箱玉系の話だが,それに興味ある人は,2章の後直ぐに 7,8章に進み,5,6章は必要に応じて参照すれば十分である. 3,4章の1次元状態和の話は飛ばしてもかまわない. おかげ様で,2012年夏に第2刷が刊行になりました.なお, 英語の目次は Bethe Ansatz and Combinatorics をご覧ください.

    ● 周期的な可積分 A^{(1)}_n セルオートマトン, 時間平均とトロピカル周期行列

    これは周期箱玉系の n色の玉への拡張に相当する. もともとの周期箱玉系の場合は,少し下にある
      「●周期箱玉系,ベーテ仮説,逆散乱法,超離散リーマンテータ関数」の 項目を参照されたし.
     A^{(1)}_n版一般化周期箱玉系の逆散乱法を定式化し, 初期値問題を解決した(up to technical conjectures). 可換な時間発展の族についての連結成分はベーテ仮説のデータから定まる トーラス上の整数点集合になる.これにより, 位相空間における等位集合の大きさは,トーラスの数え上げに帰着される. トーラスのサイズはもちろん定義行列の行列式であり,その多重度,つまり 連結成分の個数はメビウス関数を用いた表示を持つ. こうして得られる等位集合の大きさの明示式こそが 2000年頃に発見されたq=0でのベーテ根のカウントから 生じる指標公式(K-Nakanishi)の正体であった.
     逆散乱法とトロピカルリーマンテータ関数による明示式の応用として, キャリアの中の玉の個数の時間平均がトロピカル周期行列により表される ことを示した. (一般化)周期箱玉系においてこのような物理量の計算が 提示されたのは初めてのことであったが, この論文が2009年9月21日に SIGMA に投稿されるや, 当該 special issue の guest editor の1名と共著者 による同様の内容を含んだ プレプリントが arXiv:nlin.SI に現れた. まだ論文の査読期間中の2009年11月のことであった.( ^ ^ )
  • A. Kuniba and T. Takagi:
    Bethe ansatz, inverse scattering transform and tropical Riemann theta function in a periodic soliton cellular automaton for A^{(1)}_n .
    SIGMA 6 (2010), 013, 52 pages   arXiv:0909.3759
  • 周期箱玉系の等位集合の「分配関数」を計算し, ベーテ根の数の q-analogue が得られることを示した論文.
  • A. Kuniba and T. Takagi:
    Fermionic partition functions for a periodic soliton cellular automaton. J. Phys. A: Math. Theor. 44 (2011) 135204, 22pages [IOP Select: April/2011] arXiv:1011.6426
  • ●1次元多状態非対称排他過程のスペクトル

    可積分な場合としてPerk-Schultz模型(1981)は標準的であり, 定常状態への緩和の動的臨界指数は2状態の場合(非対称ならKardar-Parisi-Zhang, 対称ならEdwards-Wilkinson 指数)と同じになる. Markov行列(非エルミートPerk-Schultzハミルトニアン) の複素スペクトルはposet構造を持ち,双対性を示す. この性質は対称な場合,即ち sl(n) ハイゼンベルグ模型でも 知られていなかった.
  • C. Arita, A. Kuniba, K. Sakai and T. Sawabe:
    Spectrum in multi-species asymmetric simple exclusion process on a ring,
    J. Phys. A: Math. Theor. 42 (2009) 345002 (41pp) [IOP Select: August/2009]    arXiv:0904.1481v1
  •  
    2009年7月27日-31日,京大理学部の研究会 「New trends in qunatum integrable systems」 で講演した. 三輪さんの還暦記念研究会で,これまで参加した中でも 最も充実した研究会のひとつだった.

    ●T-system,Y-system の周期性予想,量子アフィン化 に付随する拡張. Review 講演,論文など

    Y-systemとは 熱的ベーテ方程式から抽出される関数方程式系である. 亡くなったAl.Zamolodchikov による Y-systemの周期性予想(1991年)は Fomin-Zelevinskyによりcluster代数のアイデアを用いて 鮮やかに解かれた(2003年).これは任意のアフィン・リー環 と正整数レベルにおける周期性予想 (K-Nakanishi-Suzuki 1994) でADE型かつレベル2の状況に相当する. (この頃 Fomin氏から証明できた旨知らせをいただいた.) 最近ではA型で一般レベルの場合に Volkovや Henriquesにより直接的な証明もされている (2007年). 一方,近年のcluter代数の圏論化の一大潮流から cluster圏の手法の応用が編み出され, ADEでは一般レベルでの解決をみた (Keller 2008). この論文では周期性予想をT-systemに拡張し, cluster圏の手法,行列式解の手法等を用いて ADEを含む場合に証明を与えている.
  • R. Inoue, O. Iyama, A. Kuniba, T. Nakanishi and J. Suzuki:
    Periodicities of T-system and Y-systems,
    Nagoya Math. J. 197 (2010) 59--174. arXiv:0812.0667
  • Cambridge大学 Newton Institute の研究会(2009年3月23-27日) Quantum Discrete Integrable Systems
  • での講演資料. PDF
    T-system は D.Hernandez により量子Kac-Moody代数の 量子アフィン化に拡張されている.通常の 量子アフィン・リー環を超える例として 量子トロイダル代数を含む.これら 「量子Kac-Moody代数の量子アフィン化」 に対応するY-system を導入し,simply laced の場合には 係数つき cluster代数による解釈や拡張を与えた論文.
  • A. Kuniba, T. Nakanishi and J. Suzuki:
    T-systems and Y-systems for quantum affinizations of quantum Kac-Moody algebras,
    SIGMA 5 (2009) 108, 23pages arXiv:0909.4618
  • non-simply laced の場合に周期性予想とdilogarithm 予想 の証明を解決した論文.cluster 代数による定式化に exotic な quiver が登場する.
  • R. Inoue, O. Iyama, B. Keller, A. Kuniba and T. Nakanishi:
    Periodicities of T and Y-systems, dilogarithm identities, and cluster algebras I, II. Publ. RIMS. 49 (2013) 1-42, 43-85. arXiv:1001.1880
  • arXiv:1001.1881
  • 駒場素粒子論セミナー (2010年5月20日) Aspects of T-system and Y-system
  • の資料. PDF
    Review 論文. 2009年にSydneyの会議で Murray (JPA editor in chief) から執筆してみたらと,いわば宿題のように だされてしまった論文. 2010年の初頭から9カ月くらい殆どかかりきりだった. 長いけれど,いろいろなトピックに関して ある程度独立に読めるようになっている.
  • A. Kuniba, T. Nakanishi and J. Suzuki:
    T-systems and Y-systems in Integrable Systems, J. Phys. A: Math. Theor. 44 (2011) 103001, 146pages arXiv:1010.1344
  • STATPHYS25 招待講演 (2013年7月26日 Seoul National University) Physical Mathematics of Bethe Ansatz
  • のslide. PDF

    ●量子論的非調和振動子とベーテ仮説

  • Bazhanov-Lukyanov-Zamolodchikov (2003) の背景の 極めて大雑把な紹介セミナーの記録. PDF
  • ●組み合わせベーテ仮説とタウ関数

    組み合わせベーテ仮説は箱玉系の逆散乱形式をあたえる. 即ち rigged configuration は 作用・角変数であり,時間発展を線形化する. ではバクスターの角転送行列(CTM)に相当するものなにか. 答えは(超離散)タウ関数であり,時間発展を双線形化する. X=M予想の「超離散類似」として,タウ関数は rigged configuration 上の区分線形関数により明示される. これによりKKR全単射の明示式,箱玉系の一般 N ソリトン解が構成される.
  • A. Kuniba, R. Sakamoto and Y. Yamada:
    Tau functions in combinatorial Bethe ansatz,
    Nucl. Phys. B786 [PM] (2007) 207--266. math.QA/0610505
  • ベーテ仮説とヤング図形,数理科学「ヤング図形で遊ぶ物理と数学」(2007) 1月号 27--32. 目次

  • 日本数学会 企画特別講演 (2007.9/21 東北大学) 「組合せ論的ベーテ仮説」 予稿PDF
  •   講演資料PDF   ビデオ
  • Glasgow大学の研究会(2009年3月30-4月3日) Geometric Aspects of Discrete and Ultra-discrete Integrable Systems
  • での講演資料. PDF
    D型のトロピカルR から導かれる組合せRの明示式は, エネルギー関数の拡張版に相当する区分線形関数により構成される. これら一般化されたエネルギー関数は,D型の可積分セルオートマトン において,時間発展で生成される粒子や反粒子の数え上げを与えることを 証明した論文.対応する主張はA型では Katabolism と呼ばれている. DKP階層等の超離散化との関連は今後の課題.
  • A. Kuniba R. Sakamoto and Y. Yamada:
    Generalized energies and integrable D^{(1)}_n cellular automaton,
    in New Trends in Quantum Integrable Systems, eds. B. Feigin, M. Jimbo and M. Okado (World Scientific 2011) p221--242. arXiv:1001.1813
  • ●周期箱玉系,ベーテ仮説,逆散乱法,超離散リーマンテータ関数

    周期箱玉系を,非例外型アフィンリー環のKang-Kashiwara-Misra クリスタルに対応して 一般化した。ADEの場合にベーテ固有値のq=0極限を求め, A型の場合に力学的周期に関係した冪根になることを予想した(sl2では定理)。 q=0におけるベーテ方程式(string center 方程式) を箱玉系に応用した最初の論文。
  • A. Kuniba and A. Takenouchi:
    Bethe ansatz at q=0 and periodic box-ball systems,
    J. Phys. A: Math. Gen. 39 (2006) 2551--2562. nlin.SI/0509001
  • A型の周期箱玉系の拡張として最も一般的なものをカバーしているのが以下の論文。 長方形のヤング準標準盤 (Kirillov-Reshetikhin crystal)が サイトごとに非一様に並んでいる状況において、 ワイル群不変な時間発展や保存量が構成され、 状態数の数え上げ公式、周期公式、ベーテ固有値,string center 方程式との関係が予想されている。 状態数公式は、 q=0におけるストリング解の数え上げからくる ウエイト多重度公式 に準粒子描像を与えている。 概念や記号はsimply-laced な アフィンリー環、KR crystal (if exists) 一般に通用する 定式化をしている。 予想のチェックは、計算機で数週間程した. 長方形クリスタルの組み合わせRやエネルギー関数など, 幡山五郎くんのプログラムが今なお素晴らしく活躍している。 個人的には,そうした実験から 浮上した Conjecture 2.2 を興味深く感じている. 一般に、higher rank, higher representation の状態(パス)は、 時間発展できる (evolvable)かが非自明になるが、それを簡明に特徴付けている。
  • A. Kuniba and A. Takenouchi:
    Periodic cellular automata and Bethe ansatz,
    Nankai Tracts in Math. 10. Differential geometry and physics, eds. Mo-Lin Ge and Weiping Zhang, (World Scientific, 2006) 293--302. math-ph/0511013
  • なお、上の論文の内容は、応用力学研研究集会報告書(2006)にも 日本語で収録されている。
  • 国場敦夫、竹野内晃: q=0でのベーテ仮説と周期的箱玉系 PDF
  • sl(2)でスピン1/2(2状態)という最も基本的な周期箱玉系について、 逆散乱法を定式化し、初期値問題を解決した。 組み合わせベーテ仮説にはq=1(Kerov-Kirillov-Reshetikhin)と q=0(Kuniba-Nakanishi)のバージョンがあり、 これらを融合することにより、作用・角変数、順・逆散乱写像を 構成した。 Rigged configuration(q=1)を拡張し,string center 方程式(q=0)による同値関係で 割ったものが周期系の散乱データだったのだ. Bethe root の空間はヤコビ多様体の超離散類似となり, 周期箱玉系の非線形動力学はその上の直線運動に変換される。 時間発展の可換性、保存量のワイル群不変性、 rigged configuration(ストリング)と保存量(ソリトン)の関係、 状態数公式、周期公式、ベーテ固有値との関係 などのself-contained な証明が与えられている.
  • A. Kuniba, T. Takagi and A. Takenouchi:
    Bethe ansatz and inverse scattering transform in a periodic box-ball system,
    Nucl. Phys. B747 [PM] (2006) 354--397. math.QA/0602481
  • 前作の初期値問題の解を、ソリトンの長さに 重複が無い場合に超離散リーマンテータ関数 により明示する公式を導出した。 string center 方程式の係数行列が周期行列として登場する。 この結果は q=0におけるベーテベクトルの明示式とも解釈され、 周期箱玉系の状態とq=0ベーテ状態の遷移関係式を与える。 通常ベーテ波動関数は、down spinの位置ごとに その振幅を定めるというLagrange的な記述がされるが、 この論文のものは Euler的表示になっている。 箱玉系のダイナミクスは局所的には組み合わせR (超離散戸田方程式のひとつのバージョン)で制御される。 Date-Tanaka による周期戸田格子のリーマンテータによる準周期解(1976) からちょうど30年、その一つの超離散化が、 ソリトン・タウ関数理論、量子群・結晶基底の理論、 組み合わせベーテ仮説の手法により実現したことになる。 2006年8月の京大での研究会 「可積分系数理の眺望」 で話した.
  • A. Kuniba and R. Sakamoto:
    The Bethe ansatz in a periodic box-ball system and the ultradiscrete Riemann theta function,
    J. Stat. Mech. (2006) P09005. math.QA/0606208
  • ソリトンの長さに重複がある一般の状態の場合は,rational characteristics の超離散リーマンテータ関数が現れる.
  • A. Kuniba and R. Sakamoto:
    Combinatorial Bethe ansatz and ultradiscrete Riemann theta function with rational characteristics,
    Lett. Math. Phys.  80 (2007) 199--209. nlin.SI/0611046
  • Path から rigged configuration への KKR 写像について, アフィン結晶基底の局所エネルギー分布を用いた解釈を与えた. その応用として箱の容量を一般化した周期箱玉系 (higher spin XXZ at q=0)を線形化し,初期値問題を解いた. 「キャリア変数」についても超離散リーマンテータ関数の明示式が成り立つ.
  • A. Kuniba and R. Sakamoto:
    Combinatorial Bethe ansatz and generalized periodic box-ball system,
    Reviews. Math. Phys.  20 (2008) 493--527. arXiv:0708.3287
  • 国場敦夫、坂本玲峰:
    周期箱玉系と超離散リーマンテータ関数, 数理解析研究所講究録 1541 (2007) 73--83 PDF
  • ●幾何クリスタル、トロピカルRとタウ関数

    2001年の秋に幾多の計算機実験からD型トロピカルRを発見できた。 連日幾つものメールが4人をめぐっていた。 量子群の登場以来、ヤン・バクスター方程式の解は見つける べきものではなく、一般論に従って構成するものとなっていた。 トロピカルな設定でも、いずれそうなるであろうが、 2001年当時は黎明期。そのおかげで ヤン・バクスター方程式の解を見つける楽しみを15年ぶりに体験できた。 その後、幾何クリスタルにより、いろいろな性質が証明できるように なったが、発見当初は 因数分解しない巨大な因子((4.10)のW_i)はモンスターに思われた。 完成まで時間のかかった論文で,preliminary report は 駒場で開催した研究会 「箱玉系とその周辺」 と,台湾のAcademia Sinica でRoan さんが主催した 研究会 Workshop on solvable models and quantum integrable systems (2001年11月16日-17日)で報告した. 余談だが、IMRN は数学の雑誌らしいこだわりがあり、 校正は極めて厳格だった。
  • A. Kuniba, M. Okado, T. Takagi and Y. Yamada:
    Geometric crystal and tropical R for D^{(1)}_n,
    Int. Math. Res. Notices  48 (2003) 2565-2620. math.QA/0208239
  • 上の論文のD型トロピカルRを適当な変数(タウ)により双線形化した。 (これも計算機実験で見つかった。) また、DKP, BKP階層のタウ関数がその双線形方程式を 満たすことを証明した。その際、スピン表現とテンソル表現に付随する タウ関数の関係式が鍵になる。 トロピカルRのヤン・バクスター方程式は タウ関数の双線形形式により自明化される。 この論文の内容は,白石潤一さん,武部尚志さん,山田裕二さんの企画された白馬合宿 (2003.Sep.16-19)で少しお話した. 余談。神保先生に本論文で引用している Jimbo-Miwa 論文について質問に伺ったら、 20年前の論文ですぐに思い出せない、とのことで、 Jimbo-Miwa 論文を神保さんに向かって説明するという稀有な体験をした。 その日はそれでお暇したが、後日しっかりと 明快な回答をいただいた。 Lemma B.2 は Jimbo-Miwa 論文の(7.6)の拡張になっている。
  • A. Kuniba, M. Okado, T. Takagi and Y. Yamada:
    Tropical R and tau functions,
    Commun. Math. Phys. 245 (2004) 491--517. math.QA/0303088
  • 2004年夏の数理解析研での国際研究集会 Combinatorial Aspect of Integrable Systems に関連した講究録にも以下の解説がある.
  • 国場敦夫、尾角正人、高木太一郎、山田泰彦
    Tropical R: 例と応用, 数理解析研究所講究録 1429 (2005) 57--69. PDF
  • 2002年夏に数理解析研でソリトン関連の 研究会 があった折に、 広田良吾先生から、執筆のお話をいただいたのが以下の記事。研究会では高橋大輔さんと、 「箱玉系とクリスタルは同級生」、 「広田先生とBethe Ansatz は?」などとお話をした。
  • 箱玉系と3つのR,数理科学「差分学の世紀」(2003) 9月号 56--61. 目次

  • ●ソリトンセルオートマトン(主に無限系)とクリスタル

    Kang-Kashiwara-Misra による非例外型アフィン量子群の クリスタルに付随して箱玉系を一般化した。 ソリトンの自由度を抽出し、C^{(1)}_n では そのS行列がランクがひとつ小さい代数 C^{(1)}_{n-1}の組み合わせRと一致することを 証明した。 A型以外のオートマトンをはじめて手がけた論文。 名古屋大学での国際研究集会 International Workshop on Physics and Combinatorics で発表した.
  • G. Hatayama, A. Kuniba and T. Takagi:
    Soliton cellular automata associated with crystal bases,
    Nucl. Phys. B 577 [PM] (2000) 619--645. solv-int/9907020
  • A型の対称テンソル表現のクリスタルに付随した箱玉系の一般化。 執筆時期が阪大での研究会 「箱玉系についての最近の話題」 と重なる.2000年2月の関西セミナーハウスでの研究会で講演した.
  • G. Hatayama, K. Hikami, R. Inoue, A. Kuniba, T. Takagi and T. Tokihiro:
    The A^{(1)}_M automata related to crystals of symmetric tensors,
    J. Math. Phys. 42 (2001) 274--308. math.QA/9912209
  • Kang-Kashiwara-Misra crystal の組み合わせRは、extremal元の近傍では、ある極限で アフィンワイル群の平行移動に相当する単純鏡映の積に 因子化することを証明した。 証明の鍵は Definition 4 の t という関数。 他のクリスタルへの拡張の可能性を考慮して、 もう少し立派な記号を使っておくべきだったかもしれない。 「ある極限」とは箱玉系の言葉にすると、ちょうどキャリアの容量が 無限大に対応する。ちなみに J.Stat.Phys. のこのボリュームは 2000年2月のRodney Baxter氏の還暦記念研究会 THE BAXTER REVOLUTION IN MATHEMATICAL PHYSICS のproceedings である。 この研究会の間中、証明が気になって仕方なかったが、 帰国後なんとか決着.すっきりしてO氏の結婚式に臨んだ. 東京無限可積分系セミナー と,翌年2001年の3月に京大基礎物理学研究所での研究会 Quantum integrable models で発表した.
  • G. Hatayama, A. Kuniba, and T. Takagi:
    Factorization of combinatorial R matrices and associated cellular automata,
    J. Stat. Phys. 102 (2001) 843--863. math.QA/0003161
  • 上の論文のワイル群の単純鏡映を適当にゲージ変換すると、 粒子の運動が見えてくる。これにより、非例外型ソリトンセルオートマトン の時間発展を、クリスタルや組み合わせRの知識を全く用いずに、 対生成・消滅する粒子・反粒子系の運動として初等的に記述する アルゴリズムを与えた。 2001年3月12日、高木君をたずねて幡山君と 横須賀まで行って議論したのがこの論文の内容。 J.Phys.Aのこのボリュームは2000年11月27日-12月1日に 東大数理で開催された SIDE IV のproceedings である.
  • G. Hatayama, A. Kuniba and T. Takagi:
    Simple Algorithm for Factorized Dynamics of g_n-Automaton,
    J. Phys. A: Math. Gen. 34 (2001) 10697--10705. nlin.CG/0103022
  • 上の論文のアルゴリズムを、箱の容量が一般で(高階表現のクリスタル)、 非一様の場合にも拡張したのが以下の論文。実は容量が1の場合として計算し、 あるタイミングで箱の内部で適当なリシャッフルをかければよい。 この事実はA型では福田香保理さんによってもRobinson-Schensted-Knuth対応に関連した combinatorics によって証明されている。 この論文では、適当な埋め込み操作によって非例外型オートマトンは、 A^{(1)}_n もふくめ、全て D^{(1)}_n に特殊ケースに 帰着することも示している。
  • A. Kuniba, T. Takagi and A. Takenouchi:
    Factorization, reduction and embedding in integrable cellular automata,
    J. Phys. A. 37 (2004) 1691--1709. nlin.CG/0310002
  • 非例外型アフィンリー環g_nのKang-Kashiwara-Misraクリスタルに付随する ソリトンセルオートマトンの散乱規則が、 g_{n-1}の組み合わせRと一致することが証明されている論文。 このことは当初から予想されていたが,証明はいまのところ非自明である. 自明化するような理論がほしいところ. 散乱を記述するS行列がダイナミクスを指定するR行列(のランクを削ったもの) に一致するという内容なので「S=R 論文」と呼んでいた. Comtemporary Mathematics のこのボリュームは研究会 Infinite dimensional Lie theory and conformal field theory (Virginia Univ. USA. 2000, May) のproceedings である。
  • Hatayama, G., Kuniba, A. Okado, M., Takagi, T., Yamada, Y.:
    Scattering rules in soliton cellular automata associated with crystal bases,
    Contemporary Mathematics 297 (AMS 2002) 151--182. math.QA/0007175
  • 箱玉系は可解格子模型(fusion vertex 模型)のq=0極限であり、 その自然な量子化は q を有限にすることである。 といっても単に vertex 模型に戻すのでなく、箱玉系として 興味深いのは、最高ウエイトの近傍で無限回の fusion を 実行する極限である。これにより、L operator は ワイル代数に成分を持つ行列となり、因子化される。 各因子はqに依存した振幅で玉を移動させる演算子になる。 このような q-箱玉系あるいは量子箱玉系(quantized box-ball system)を構成した. また,その状態ベクトルについて2種類のノルムを導入した。 ノルムの時間発展不変性からは一群のq-analysisの等式が従う。 L operator の因子化は、 本来はユニバーサルRとその適当な像の構造論から理解されるべきであろう。 一般化カイラルポッツ模型には q が冪根の場合に cyclic L operator を 因子化する話がある。 2004年3月にCanberra に滞在した折に、 専門家の Vladimir Mangazeev や Sergey Sergeev らと少し話をしたが、 直接関係するコメントは得ていない。
  • R. Inoue, A. Kuniba and M. Okado:
    A Quantization of box-ball systems,
    Rev. Math. Phys. 16 (2004) 1227--1258. nlin.SI/0404047
  • 境界での可積分条件は反射方程式 KRKR = RKRK として知られている。 ここで、R として量子 R の代わりにトロピカル R としたものを トロピカル反射方程式と呼ぼう。あるクラスのA^{(1)}_n 幾何クリスタルとトロピカル R について、トロピカル 反射方程式の 解(トロピカル K)を構成し、可解格子模型で よく知られた double row construction の超離散化により、 箱玉系を反射壁のある場合へ拡張した。 2004年の6月から9月にかけて、入院していた病院の 公衆電話のパソコン接続で山田さんと尾角くんと交信しながら進めた論文。 お二人をはじめ、中西知樹さん夫妻、簔口知樹さん,鈴木淳史くん、 高木太一郎くん、西野晃徳くん、竹野内晃くん、そしてキャンセルした 数理研の研究集会 Combinatorial Aspect of Integrable Systems の参加者の方からお見舞いをいただいた。 三輪先生は、研究会は若いひとたちを中心にうまくいってます、 と寄せ書きをくださったが、「若いひとたち」のあとに「(ぼくより)」 という正確な注釈がつけられていた。
  • A. Kuniba, M. Okado and Y. Yamada:
    Box-ball system with reflecting end,
    J. Nonlin. Math. Phys. 12 (2005) 475--507. nlin.SI/0411044
  • 反射系,周期系にも触れた日本語の解説としては以下のものがある.
  • 国場敦夫、尾角正人、山田泰彦
    クリスタルから見た箱玉系,
    数理解析研究所講究録 1422 「可積分系数理の展望と応用」 (2005) 44--55. DVI
  • 箱玉系の解析に、rigged configuration や Kerov-Kirillov-Reshetikhin 全単射など、組み合わせベーテ仮説(q=1)のテクニックを導入した論文。 イントロにジョークの Physical Combinatorics Chronicle がある. フェルミ公式の準粒子描像の準粒子とは箱玉系のソリトンだった。 KKR全単射は(無限系の)箱玉系の順・逆散乱写像だった。 「むすび」には周期箱玉系と q=0 での状態数の関係もコメントされている. この話は2002年夏の京大数理研の 研究会 の講演内容である。
  • 国場敦夫、尾角正人、高木太一郎、山田泰彦
    箱玉系の頂点作用素と分配関数, 数理解析研究所講究録 1302
    「可積分系研究の新展開--連続・離散・超離散」 (2003) 91--107. PDF
  • Kerov-Kirillov-Reshetikhin全単射は純粋に組み合わせ論的な アルゴリズムで定義される。フェルミ公式の証明の核心でありながら、 その表現論的な起源は20年間不問にされてきた。 この論文では、Kerov-Kirillov-Reshetikhin全単射を、 組み合わせRによる「頂点作用素」として定式化した。 (clcl-zdon というコードネームが着いている.) これはSchultz による nested Bethe ansatz (ベーテベクトルの ランクに関する漸化的な構成法)の q=0 類似に相当し、 箱玉系の逆散乱写像の表現論的な構成を与える。 2005年の3月初旬、阪大の尾角くんの部屋で 坂本玲峰くんたちと正規順序について検討していたら、 ベーテが98歳で亡くなったというニュースに接した。 これは寂しかったけれど,同時に神戸の山田さんから O氏が結婚し(てい)たというニュースも届いた.
  • A. Kuniba, M. Okado, R. Sakamoto, T. Takagi and Y. Yamada:
    Crystal interpretation of Kerov-Kirillov-Reshetikhin bijection,
    Nucl. Phys. B 740 [PM] (2006) 299--327. math.QA/0601630
  • 1999年11月8日-10日に九大応力研で開催された 研究会 での講演内容をまとめた報告書. 少し古い.最後の章に挙げられている問題は今では大部分が解決されている.
  • ソリトンセルオートマトンとクリスタル理論,
    「非線形波動のメカニズム-現象とモデルの数理構造-」 九州大学応用力学研究所報告書 11ME-S4 (2000) 96--102 DVI
  • 一般向けの記事としては以下のものもある。
  • ソリトン・セルオートマトンと量子群,
    パリティー、丸善 (2002) 8月号 61--63. PDF

  • セル・オートマトンと量子群,
    日本応用数理学会論文誌 Vol.13 No.2, (2003) 12--22. PDF


  • ●組み合わせR

  • G. Hatayama, A. Kuniba, M. Okado and T. Takagi:
    Combinatorial R matrices for a family of crystals: C^{(1)}_n and A^{(2)}_{2n-1} cases,
    Prog. in Math. 191 (2000) 105--139. math.QA/9909068
  • G. Hatayama, A. Kuniba, M. Okado and T. Takagi:
    Combinatorial R matrices for a family of crystals: B^{(1)}_n, D^{(1)}_n, A^{(2)}_{2n} and D^{(2)}_{n+1} cases,
    J. Alg. 247 (2002) 577--615. math.QA/0012247
  • ●q=0におけるベーテ仮説, ウエイト多重度とQ-system

    q とはアフィン量子代数 U_q に付随するお話 (模型、代数、表現 etc)という意味である。 q=0でのベーテ方程式をストリング仮説で扱い, string center 方程式を導出した.その非対角解のメビウス反転による数え上げから 状態空間のウェイト多重度の公式が従うことを証明した. q=1では古典部分代数の対称性があり,既約分解の多重度(クレブシュ・ゴルダン係数)に 対するフェルミ公式が従うことは良く知られていた. q=0ではそれと対照的にウエイト多重度が得られる. ストリング仮説の完全性に関連する基本的問題で,q=1以外にも 系統的に扱える場合が手付かずに残っていたことは少々驚きであった. 最近,周期箱玉系にこの話が再登場している. 1998年12月20日-22日に那覇で研究会 「無限可積分系の新展開II」 を何人かの方と企画した頃に考えていた問題. 年があけて,1999年の1月から2月にかけて国際高等研と京大数理研で 国際研究集会 Physical Combinatorics があり,知樹さんと発表した.
  • A. Kuniba and T. Nakanishi:
    The Bethe equation at q=0, the M"obius inversion formula, and weight multiplicities: I. The sl(2) case,
    Prog. in Math. 191 (2000) 185--216. math.QA/9909056
  • A. Kuniba and T. Nakanishi:
    Bethe equation at q=0, M"obius inversion formula, and weight multiplicities: II. X_n case,
    J. Alg. 251 (2002) 577--618. math.QA/0008047
  • A. Kuniba, T. Nakanishi and Z. Tsuboi:
    The Bethe equation at q=0, the M"obius inversion formula, and weight multiplicities: III. The X^{(r)}_N case,
    Lett. Math. Phys. 59 (2002) 19--31. math.QA/0105146
  • 多変数(実は無限変数)ラグランジュ反転公式により Q-system の冪級数解を構成するという立場で q=0とq=1の指標公式を統一的に捉えた論文.
  • A. Kuniba, T. Nakanishi and Z. Tsuboi:
    The canonical solutions of the Q-systems and the Kirillov-Reshetikhin conjecture,
    Commun. Math. Phys. 227 (2002) 155--190. math.QA/0105145
  • ●フェルミ公式

    角転送行列のトレース X ((古典制限)1次元状態和) と, ベーテ方程式の根のq-counting formula M (フェルミ公式)が一致するという事実は 1990年頃からA型の場合に良く知られていた.X をクリスタルを用いて 一般のアフィン・リー環 g_n に(conjecturalに)拡張したものと, g_n 型ベーテ方程式から生じる M が等しいことを X=M 予想(X=M conjecture), またはフェルミ公式予想という. X は Kirillov-Reshetikhin 加群のテンソル積の古典部分代数への分岐係数の q-analogue であり, M はベーテ方程式は重根を許さないという制限を反映した麗しい q-二項係数の積の和という 構造を持つ.X=M予想を一般の non-twisted アフィン・リー環で定式化し, Q-system や string 仮説の完全性に関連した諸問題を総括したのが以下の論文. 1998年5月に North Carolina State Univ.(USA)で K. C. Misra さんらが開催した 研究会 ``Conference on affine and quantum affine algebras and related topics" で尾角くんと講演した. Contemp. Math. のこのボリュームはこの研究会の proceedings である.
  • Hatayama, G., Kuniba, A. Okado, M., Takagi, T., Yamada, Y.:
    Remarks on fermionic formula,
    Contemporary Mathematics 248 (AMS 1999) 243-291. math.QA/9812022
  • 前作の予想を twisted の場合や,より一般のパスに拡張しているのが以下の論文. ダイログ和公式や,スピノン指標公式,「regime II 的な」極限と ストリング関数の KNS予想との関係なども 収録されている.フェルミ公式を最初に発見したのはベーテである. (1931年の論文でフェルミに謝意を述べている.) 2001年頃までの研究史 について,イントロにやや詳しい解説がある. Appendix B は箱玉系のソリトンの素性を教えてくれるデータである. Prog. in Math のこのボリュームは 2001年に 岡山の林原研究所と京大数理研で開催された Barry McCoy 氏の 還暦記念研究会 MATHPHYS ODYSSEY 2001 INTEGRABLE MODELS AND BEYOND の proceedings である. 岡山での McCoyさんの講演は,かのキューブリック監督の 「2001年宇宙への旅」のオープニングでも有名な R.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」を流しながら 始まるという演出つきだった.
  • G. Hatayama, A. Kuniba, M. Okado, T. Takagi and Z. Tsuboi:
    Paths, Crystals and Fermionic Formulae,
    Prog. in Math. Phys. 23 (2002) 205--272. math.QA/0102113
  • ●Demazure クリスタルと1次元状態和

    A型の完全対称テンソル表現,あるいは完全反対称テンソル表現に付随する (非制限)1次元状態和の q-2項係数による公式を与えている. Hall-Littlewood多項式のピエリ型分解公式から従う. フェルミ公式の熱力学的極限がスピノン型の指標公式になることも 示している. 1997年の秋,神戸の山田さんのところに 共著者6人全員集まって 記念写真を撮りましょうと言っていたが,果たせなかった.
  • Hatayama, G., Kirillov, A. N., Kuniba, A. Okado, M., Takagi, T., Yamada, Y.:
    Character formulae of \widehat{sl}_n-modules and inhomogeneous paths,
    Nucl. Phys. B 536 [PM] (1998) 575--616. math.QA/9802085
  • Kuniba, A., Misra, K.C., Okado, M., Uchiyama, J.:
    Demazure modules and perfect crystals,
    Commun. Math. Phys. 192 (1998) 555--567. q-alg/9607011
  • 1次元状態和を有限サイズで区切ると q-polynomial になる.これは 表現論的には Demazure 加群の指標(ストリング関数)という意味がつく. 以下の論文の内容は International Workshops on STATISTICAL MECHANICS AND INTEGRABLE SYSTEMS で報告した. この研究会で Anne Schilling に初めて会った. 僕はディナーに参加しなかったので見そこなったけれど, 鈴木淳史くんは Zamolodchikov さんとダンスで大いに 盛り上がってたと翌朝一番に Rinat Kedem 氏から聞いた.
  • Kuniba, A., Misra, K. C., Okado, M., Takagi, T., Uchiyama, J.:
    Characters of Demazure modules and solvable lattice models,
    Nucl. Phys. B 510 [PM] (1998) 555--576. q-alg/9707004
  • Kuniba, A., Misra, K. C., Okado, M., Takagi, T., Uchiyama, J.:
    Crystals for Demazure modules of classical affine Lie algebras,
    J. Alg. 208 (1998) 185--215. q-alg/9707014
  • Kuniba, A., Misra, K. C., Okado, M., Takagi, T., Uchiyama, J.:
    Paths, Demazure crystals and symmetric functions,
    J. Math. Phys. 41 (2000) 6477--6486. q-alg/9612018
  • ●角転送行列のスペクトル分解

    レベル1のA型頂点模型の 角転送行列のスペクトルを局所的なエネルギー関数の列により分解すると, level 1 module への level 0 action を反映する skew Young 図、 skew Schur 関数が出てくる。これに関連して あるクラスのヤング図に付随する Kostka 多項式の組み合わせ論的記述を得た。 1996年の6月24日-29日に Landau Insititute で研究集会があり、 知樹さんが講演した。日本人が多く参加したが,そのなかに 亡くなられた S.K. Yang さんもいらした. 国内では,数研の 研究会 で話す機会があった. この年の秋には続き(II: Higher levels)を考えに University of North Carolina (USA)まで行った. non-movable tableau という対象物と、それに付随して skew Schur 関数の交代和がでてくる。これの表現論的意味はいまだ謎。 遅まきながらそのときに初めて Kailash Misra さんと Naihuang Jing さんにお会いした.知樹さんのつてで, Chapel Hill では Varchenko さんや Cherednik さんのセミナー で,T-system と Analytic Bethe ansatz の話をさせてもらった.
  • Kirillov, A.N., Kuniba, A., Nakanishi, T.:
    Skew Young diagram method in spectral decomposition of integrable lattice models,
    Commun. Math. Phys. 185 (1997) 441--465. q-alg/9607027
  • Kirillov, A. N., Kuniba, A. Nakanishi, T.:
    Skew Young diagram method in spectral decomposition of integrable lattice models II: Higher levels,
    Nucl. Phys. B 529 [PM] (1998) 611--638. q-alg/9711009
  • ●反射方程式と境界自由エネルギー

    1995年の10月--11月にオーストラリア国立大と Melbourne 大に滞在した時の論文。 Melbourne では George Andrews 氏とオフィスが一緒で、セミナーにも来てくれた。
  • Batchelor, M.T., Fridkin, V., Kuniba, A., Zhou, Y-K.:
    Solutions of the refelection equation for face and vertex models associated with A^{(1)}_n, B^{(1)}_n, C^{(1)}_n, D^{(1)}_n and A^{(2)}_n,
    Phys. Lett. B 376 (1996) 266--274. hep-th/9601051
  • バルクと境界の臨界指数のスケーリング則 2αs = αb+2 を検証している。 (Inversion relation を解く計算は若干 formal)
  • Batchelor, M.T., Fridkin, V., Kuniba, A., Sakai, K., Zhou, Y-K.:
    Free energies and critical exponents of the A^{(1)}_1, B^{(1)}_n, C^{(1)}_n and D^{(1)}_n face models,
    J. Phys. Soc. Jpn. 66 (1997) 913--916. cond-mat/9703036
  • ●解析的ベーテ仮説

  • Kuniba, A., Suzuki, J.:
    Analytic Bethe ansatz for fundamental representations of Yangians,
    Commun. Math. Phys. 173 (1995) 225--264. hep-th/9406180
  • Kuniba, A., Ohta, Y., Suzuki, J.:
    Quantum Jacobi-Trudi and Giambelli formulae for U_q(B^{(1)}_r) from analytic Bethe ansatz,
    J. Phys. A: Math. Gen. 28 (1995) 6211--6226. hep-th/9506167
  • A. Kuniba, M. Okado, J. Suzuki and Y. Yamada:
    Difference L operators related to q-characters,
    J. Phys. A: Math. Gen. 35 (2002) 1415--1435. math.QA/0109140
  • A. Kuniba:
    Quantum Jacobi-Trudi formula and analytic Bethe ansatz,
    数理解析研究所講究録 962 「代数的組み合わせ論」 (1996) 97--105.
  • ●転送行列の関数方程式(T-system)

    1991年の春(日本の秋),Canberraで恒例の研究会があり, Melbourne から Paul Pearce が Kluemper-Pearce 論文を ひっさげて現れた.彼の講演のあと, Vladimir V. Bazhanov (V.V.B.) と会場から引き上げた. ちょっと遠い自分らの建物へと向かって、広大な野原のようなANUのキャンパスを一緒に歩き出した. fusion RSOS 模型のスケーリング次元を転送行列の関数方程式から 計算できたというのだ.Vladimirは Bazhanov-Reshetikhin (1987) 論文で thermodynimic Bethe ansatz (TBA) でこの模型の central charge を Rogers dilogarithm の特殊値として求めていた. こちらもDJKMOで一点関数をやっていた. お互いひとごとではなかった.しかもPearceたちの関数方程式は, こねくり回された挙句,TBA方程式そっくりに変形されてしまったではないか.. Vladimir は少し興奮していた. TBA方程式(Y-system)と転送行列の関数方程式(T-system) にどうしてそういう関係があるのか,いまだにわからない. 「わからなかったら証明せよ,さもなくば無視せよ.証明も無視もできなければ 拡張せよ」という言葉に従うに留まっている。 一方 T-system についてはその後、中島啓さんや Hernandez氏らによる発展がある。 また Y-system については、その restricted version の周期性予想 について、Fomin, Zelevinsky の cluster algebra や Volkov らにより解決済みリストが拡大しつつある。
  • Kuniba, A., Nakanishi, T., Suzuki, J.:
    Functional relations in solvable lattice models: I. Functional relations and representation theory,
    Int. J. Mod. Phys. A 9 (1994) 5215--5266. hep-th/9309137
  • Kuniba, A., Nakanishi, T., Suzuki, J.:
    Functional relations in solvable lattice models: II. Applications,
    Int. J. Mod. Phys. A 9 (1994) 5267--5312. hep-th/9310060
  • Kuniba, A., Suzuki, J.:
    Functional relations and analytic Bethe ansatz for twisted quantum affine Lie algebras,
    J. Phys. A: Math. Gen. 28 (1995) 711--722. hep-th/9408135
  • 1995年だろうか,駒場の戸田セミナーで話す機会をいただいて, T-system が 離散戸田場方程式の一種であること,Jacobi-Trudi 行列式解の話などを紹介したら, 後日,広田先生に声をかけていただいて早稲田大に伺った.その縁でまとまったのが以下の論文.
  • Kuniba, A., Nakamura, S., Hirota, R.:
    Pfaffian and determinant solutions to a Discretized Toda equation for B_r, C_r and D_r,
    J. Phys. A: Math. Gen. 29 (1996) 1759--1766. hep-th/9509039
  • Takahashi-Suzuki (Prog.Theor.Phys.1972)によれば, 臨界XXZ模型に熱的ベーテ仮説,ストリング仮説を適用する際, ストリングの長さとしては特別なもの(Takahashi-Suzuki number)だけが 許される.それは模型の非等方性を表す(量子変形) パラメータ q=exp(iπ/p) の p の連分数展開から recursive 定められる不思議な数だ. この論文では,転送行列の index がちょうど Takahashi-Suzuki number のものだけで 閉じた関数方程式(T-systemの類似)を満たすことを示し, Takahashi-Suzukiの結果を量子転送行列により 有限温度相関長へと拡張している. International Workshops on STATISTICAL MECHANICS AND INTEGRABLE SYSTEMS で一部発表した.
  • Kuniba, A. Sakai, K., Suzuki, J.:
    Continued fraction TBA and functional relations in XXZ model at root of unity,
    Nucl. Phys. B 525 [FS] (1998) 597--626. math.QA/9803056
  • 1997年12月14日-17日に熊本大学で岡本先生、薩摩先生、木村先生 主催のパンルベ関連の研究会があり、その報告書として提出したもの。 Frenkel-Reshetikhin により q-character が導入される以前に書かれた古い原稿で、 今では解決してる問題も少なくないが、 T-system, Q-system, Y-system がもろに全部書き出されていて 眺めるには便利かもしれない。
  • ベーテ仮説と差分方程式 PDF
  • ●熱的ベーテ仮説、ダイログ関数、指標公式

    Bethe ansatz からの insight の個人的なルーツは, 以下の論文と Vladimir からの耳学問. この論文の Figureの「ぬり絵」で, non-simply-laced の場合は short root の升目は縮めて描いたほうがいい,とアドバイスをくれたのは彼である. 実際,フェルミ公式の論文 の abstract にある G_2,B_3, D_4 の埋め込みや 17page あたりはそのように 「ぬり絵」をするとわかりやすい.レベル 2 E^{(1)}_8 RSOS 模型と magnetic Ising に関する Remark 2.6 も彼による.
  • Kuniba, A.:
    Thermodynamics of U_q(X^{(1)}_r) Bethe ansatz system with q a root of unity,
    Nucl. Phys. B 389 (1993) 209--244. PDF
  • 1992年の2月初旬, Paul Pearce を尋ねて Melbourne に飛び,Kluemper-Pearce 論文についていろいろ聞いた。 結局自分で数値計算してみない限り極意はつかめ そうもなかった. いつぞや Andreas Kluemper が誰かに "just do it" と言ってたのを思いだす。 その後,知樹さん(夫妻)がCanberraにきて dilogarithm モードになり、 くるくるといろんな contour に沿ってdilog を解析接続し始めることになった。 この解析接続の自由度がいろいろなスペクトルを生むことがわかった。 パラフェルミオンの index を指定するには、この自由度を2次形式と思って平方完成し、 その中身をみてやればよかった。この計算はT-systemの論文 のAppendix A に収録されていて、Feigin さんと Frenkel さんに城之崎の喫茶店で 話したことはあるが、セミナーしたことはない。q が1の冪根のときの Q-system の特殊値に関連している。
    余談。この頃、C.N.Yang 氏が(今は亡くなった)婦人と連れ立って,Canberra を 訪れた.Baxter 邸の夕食に招かれた時のエピソードと写真は 1999年の数セミ11月号にある. Yang さんと Baxter さんの間に立って Yang-Baxter 写真を 撮ろうと、Murray Batchelor 達と抱いていた野望は果たせなかったけれど、 話は興味深かった。
  • Kuniba, A., Nakanishi, T.:
    Spectra in conformal field theories from the Rogers dilogarithm,
    Mod. Phys. Lett. A 7 (1992) 3487--3494. hep-th/9206034
  • 非ねじれ方アフィンリー環の一般の正整数レベルのストリング関数について、 q-series formula を予想している。 A^{(1)}_1 では Lepowsky-Primc の公式である. ここでは、TBA解析から effective central charge の -1/24倍の、 dilog の解析接続にわたる分配関数として出てくる. Richmond-Szekeres 流に q->1 での発散強度を評価し、 Kac-Peterson 理論と比べれば 有名な dilogarithm sum conjecture に帰着する。 その後、A型ではテンソル表現の場合も含めてHKKOTYで証明し、 ねじれ方アフィンリー環の場合の予想はHKOTTにより 拡張された。 たしかA型では他にも Feigin-Stoyanovski や Georgiev など、 いろいろな人が証明していたと思う。
  • Kuniba, A., Nakanishi, T., Suzuki, J.:
    Characters in conformal field theories from thermodynamic Bethe ansatz,
    Mod. Phys. Lett. A 8 (1993) 1649--1659. hep-th/9301018
  • 熱力学的ベーテ仮説法の最近の話題,
    物性研究 61 (1994) 712--715.
  • ●レベル・ランク双対性

    共形場理論のWZW 模型でA型の場合, fusion rule がランクとレベルの入れ換えに対して不変であることを Verlinde 公式を用いて証明した. fusion RSOS 模型におけるスピンの隣接条件は fusion rule なので、 これは模型の level-rank duality を示唆する. (fusion していない場合はJimbo-Miwa-Okadoにより知られている結果) この本は,1990年1月8-14日にインドのボンベイにある Tata Institute で開催された 国際研究集会の proceedings である.Kac, Gross, Wilczek, Shenker, Kazakov など といった人々が参加していた.V.Pasquier 氏にはこのとき会った. 同年6月に初めて Australia に渡ったときには Melbourne 大の Paul Pearce, Peter Forrester, Katherine Seaton らのグループのセミナー で話した.
  • Kuniba, A., Nakanishi, T.:
    Level-rank duality in fusion RSOS models,
    Modern Quantum Field Theory, ed. A. Dhar, S. Mukhi,
    A. Raina and A. Sen (World Scientific 1991) 344-374, Errata 567.
  • Kuniba, A., Nakanishi, T., Suzuki, J.:
    Ferro- and Antiferro-magnetization in RSOS models,
    Nucl. Phys. B 356 (1991) 750--774.
  • ●一次元状態和と表現論

  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    A new realization of the basic representation of A^{(1)}_n,
    Lett. Math. Phys. 17 (1989) 51--54.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    One dimensional configuration sums in vertex models and affine Lie algebra characters,
    Lett. Math. Phys. 17 (1989) 69--77.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    Path space realization of the basic representation of A^{(1)}_n,
    Infinite Dimensional Lie Algebras and Groups, ed. V.G.Kac (World Scientific 1989) 108-123.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    Paths, Maya diagrams and representations of \hat{sl}(r,C),
    Adv. Stud. Pure Math. 19 (1989) 149-191.
  • 伊達悦朗、神保道夫、国場敦夫、三輪哲二、尾角正人:
    可解格子模型とWeyl-Kac指標公式,
    数理解析研究所講究録 700 「表現論とその物理的応用」 (1989) 39--47.
  • Hatayama, G., Koga, Y., Kuniba, A. Okado, M., Takagi, T.:
    Finite crystals and paths,
    Adv. Stud. in Pure Math. 28 (2000) 113--132. math.QA/9901082
  • ●角転送行列による局所状態確率の計算など

  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    Exactly solvable SOS models: Local hieght probablilities and theta function identities,
    Nucl. Phys. B 290 [FS20] (1987) 231-273.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    Exactly solvable SOS models II: Proof of the star-triangle relation and combinatorial identities,
    Adv. Stud. Pure Math. 16 (1988) 17-122.
  • 1987年の7月、Portland Maine (USA)で開催された AMS summer school "Theta functions" の proceedings に出た論文。 今思い返してみても、 いろんな 意味でこれほど刺激的な summer school を体験したことはない。
  • Kuniba, A.:
    Theta function identities in a series of solvable lattice models,
    Proceedings of Symposia in Pure Mathematics 49 (1989) Part I (AMS 1989) 333--340.
  • Kuniba, A., Yajima, T.:
    Local state probabilities for solvable restricted solid-on-solid models: A_n, D_n, D^{(1)}_n, and A^{(1)}_n,
    J. Stat. Phys. 52 (1988) 829-883.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T.:
    A quantum trace formula for R-matrices,
    Selected Topics in Conformal Field Theory and Statistical Mechanics,
    ed. H. S. Song (Kyohak Yunkusa 1990) 87-111.
  • Date, E., Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T.:
    Spontaneous staggered polarisations of the cyclic solid-on-solid models,
    J. Phys. A: Math. Gen. 23 (1990) L163-L167.
  • ●可解格子模型の構成

    1985年頃のこと. Andrews-Baxter-Forrester 模型, 特に Hard hexagon 模型の秩序パラメータに Rogers-Ramanujan 恒等式が出てくるとか, Lepowsky-Wilson による affine Lie 環による解釈があるとか, 阿久津さんから嵐の前の静けさなんだと予感させられていた. かといって,手で勝手に設定した模型を調べても,その star-triangle relation は すぐつぶれてしまい,よい解を持つわけがなかった. George Andrews の "The theory of partitions" を 手に取った.Rogers-Ramanujan 恒等式は Gordon による無限個の恒等式の 最初の一つだった.その magic number は 5 であり,次のは 7 だった. Gordon 恒等式の sum side を角転送行列と見比べながら睨んでいると, 二次元のある古典格子ガス模型がみえた. 幸いstar-triangle relation はすぐにはつぶれなかった. でも15個の未知関数に関する37個の連立関数方程式で,手で解ける望みはなかった. 最上のものを求めるなら解は楕円テータ関数のはずだ. しかもBoltzmann重率は初期条件を満たし,交差対称性をもつはず. 特に crossing point は magic number から π/7 でなければならなかった. おおかたのBoltzmann重率は,テータ関数のゼロ点で決まるにちがいなかった. ただし,テータ関数の何次式なのかすら不明だったし,全部がゼロ点の位置だけで決まる 形と仮定すると解はつぶれてしまっていた. 数ヶ月後の1985年10月30日,夜になって駒場の3号館1階の パソコンの画面に 37 という数字が表示された. プログラムが解の候補をトライするごとに満たされる star-triangle relation の個数だった. 答えはテータの2次式で, 15種の Boltzmann 重率のうち,一つだけは 確かに因子化していなかった. 後日 Baxter と Andrews も全く同じ模型を解きつつあったことがわかり, 和達先生を通じて初めて Baxter さんと手紙のやり取りがあった.たしか記憶では、 「偶然か必然か,あるとき誰かと全く 同じことを考えるなんてことが起きるから life is interesting なのです」のような ことが書いてあった。(文調が「プロジェクト X」になっている。)
  • Kuniba, A., Akutsu, Y., Wadati, M.:
    Exactly solvable IRF models. I. A Three-state model,
    J. Phys. Soc. Jpn. 55 (1986) 1092-1101.
  • Kuniba, A., Akutsu, Y., Wadati, M.:
    Exactly solvable IRF models. IV. Generalized Rogers-Ramanujan identities and a solvable hierarchy,
    J. Phys. Soc. Jpn. 55 (1986) 2166-2176.
  • Kuniba, A., Akutsu, Y., Wadati, M.:
    Exactly solvable IRF models. V. A further new hierarchy,
    J. Phys. Soc. Jpn. 55 (1986) 2605-2617.
  • Jimbo, M., Kuniba, A., Miwa, T., Okado, M.:
    The A^{(1)}_n face models,
    Commun. Math. Phys. 119 (1988) 543-565.
  • 統計物理の格子模型とDynkin図形,
    「ディンキン数学」(筑波大学)研究集会報告集,(1987) 118--141.
  • Kuniba, A.:
    Quantum R matrix for G_2 and a solvable 175-vertex model,
    J. Phys. A: Math. Gen. 23 (1990) 1349-1362.
  • Kuniba, A.:
    Exact solution of solid-on-solid models for twisted affine Lie algebras A^{(2)}_{2n} and A^{(2)}_{2n-1},
    Nucl. Phys. B 355 (1991) 801-821.
  • Owczarek-Baxter による generalized percolation probability を, 量子群からくるTemeperley-Lieb型模型について, fusion rule と Verlinde formula を用いて拡張した. A^{(1)}_1の指標の比において,指標の変数に fusion rule matrix を代入したものになる. 指標(character)を ch と書いていたら 出版社が勝手に cosh に変えてしまい,そのまま世に出てしまったという 恐ろしい論文.Corrigendum はその誤植訂正である.
  • Batchelor, M. T., Kuniba, A.:
    Temperley-Lieb lattice models arising from quantum groups,
    J. Phys. A: Math. Gen. 24 (1991) 2599-2614. Corrigendum J. Phys. A: Math. Gen. 25 (1992) 1019.
  • Pasquier の方法で G^{(1)}_2量子R行列から solid-on-solid 模型のstar-triangle relation の 三角関数解をつくった.問題は楕円関数解に持ち上げうる表示を見つけることだった。 三角関数による表示は一意的でないが,楕円に持ち上がるとしたら当然 quasi-periodicity が一様なものを見つける必要がある. できる保証がない試みに時間をかけたが,最後には報われた. レベル1の restricted G^{(1)}_2 SOS model は Baxter の Hard hexagon model と等価になる. ちなみに(11)式の第1項の分母 [6][13][3] は誤りで,正しくは [6][12][3] である. (出版社によるミスプリ.)
  • Kuniba, A., Suzuki, J.:
    Exactly solvable G^{(1)}_2 solid-on-solid models,
    Phys. Lett. A 160 (1991) 216-222.
  • ●非線形シュレーディンガー方程式の量子論

  • Wadati, M., Kuniba, A., Konishi, T.:
    The quantum nonlinear Schr"odinger model; Gelgand-Levitan equation and classical soliton,
    J. Phys. Soc. Jpn. 54 (1985) 1710-1723.
  • Wadati, M., Kuniba, A.: The quantum nonlinear Schr&"odinger model; Conserved quantities,
    J. Phys. Soc. Jpn. 55 (1986) 76-81.
  • Wadati, M., Konishi, T., Kuniba, A.:
    Classical and quantum solitons,
    Quantum Field Theory, ed. F. Mancini (North-Holland 1986) 305-323.
  • ● 日本語の記事等

  • 阿久津泰弘,国場敦夫,和達三樹
    物理学と数学の接点から,
    数学セミナー,日本評論社 (1986) 7月号 33--42. 目次
  • 可解格子模型,
    江沢洋 編「数理物理への誘い」遊星社 (共著) (1994) 48--64.
  • C.N.ヤンとヤン-バクスター方程式,
    数学セミナー,日本評論社 (1999) 11月号 48--52. 目次
  • 箱玉系と3つのR,
    数理科学「差分学の世紀」(2003) 9月号 56--61. 目次

  • ベーテ仮説とヤング図形,
    数理科学「ヤング図形で遊ぶ物理と数学」(2007) 1月号 27--32. 目次

  • ラプラス-ルンゲ-レンツベクトル, Gruppen Pest の始祖的例題,
    数理科学「代数的物理観」(2007) 7月号 50--55. 目次
  • 力学 てこの原理からハミルトンの原理まで,
    数理科学「<<原理は美しい>>-自然は調和している-」(2009) 12月号 7--13. 目次
  • 徒然なるまま厳密解,
    数理科学「物理と数学における厳密解-自然現象の解明に向けて-」(2012) 11月号 5--6. 目次
  • 電磁気学とベクトル解析,
    数理科学「物理学と数学のつながり」(2017) 5月号 23--30. 目次
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